3月27日(火)

 志村けんサンのバカ殿が寝そうな、ふっくらふかふか布団は、気持ち
よかったけど、やっぱりすぐ目が覚めちゃうねえ。
 まだ午前5時だよ。外は静かすぎるし。

 朝食を午前8時30分にしてしまったので、仕方なく『めざましテレビ』
を延々見る。東京で『めざましテレビ』を見ている人は、何で午後6時
30分も、午前7時30分も、おなじ芸能ニュースをやるのだろうと思
って見ている人も多いと思うけど、地方だと午前6時55分からが『め
ざましテレビ』のスタートなのだ。修善寺もそうかと思ったけど、やっ
ぱりここはまだ東京圏なんだなあ。朝から、何度もおなじニュースを見る。

 午前8時30分。朝食。
 昨日の夕食で度肝を抜かれたので、朝食も期待していたら、ちょっと
期待が大きすぎたようだ。それでもじゅうぶん過ぎる味である。球場に
イチローを見に行ったら、3打数1安打1四球で終わったようなもので
ある。3打数1安打なら、3割3分3厘。首位打者圏内の数字である。
でもやっぱりイチローを見に行ったら、4打数3安打1本塁打を期待し
てしまう。
 最初のどんこ椎茸の七輪焼きなどは、じゅうぶん3塁打である。 「ごそ」と呼ばれる、深海魚も、四球か、1安打くらいは行っていたと 思う。  お味噌汁が、ちょっと凡打かな。  玉子焼きは、凡庸な味だった。  デザートのいちごの新鮮なこと。自然の甘さだ。
 ほらね。トータルすれば、5打数3安打。打率4割の出来ではないか。  でも、昨日の夕食は、3打席連続本塁打に、2塁打2本くらいの、打 率10割だったから、期待しちゃうよなあ。贅沢だ。  午後9時。なんだかんだ言いながら、満腹のお腹をさすりながら、散 歩に出かける。 「竹の小径」と呼ばれる整備された道を行く。狩野川に向って、竹林が 美しい。 「これはいいね!」と、嫁と異口同音…と思いきや、いきなり目前に、 新築住宅が2軒。パナホームだか、ミサワホームだか、へーベルハウス だか知らないけど、せっかくの「竹の小径」の途中に、ピッカピカの新 築住宅があるのだ。いかにも建売住宅みたいだぞ。買った人に文句は無 いけど、せっかく「竹の小径」と銘打って、整備するなら、一般住宅は 排除しなきゃ。 「竹の小径」を行くと、甘味処などあって、朱塗りの欄干の川のせせら ぎが現れるだけに、一般住宅の景観はもったいなかった。
 さらに進むと、狩野川の両側に、昭和初期、いや明治時代から建って いそうな古い旅館が並んでいて。最高の風景だ。なのに看板に大きく 「文化財の宿」と書いては、風情が掻き消えてしまう。  川の護岸も左はコンクリートで、右は石の埋め込みと、もうひとつ統 一が取れていない。惜しい。  どうも修善寺の人たちは、観光地作りが不得手のようだなあ。
 古くから伝わる温泉地だったから、不景気というのを知らずに来て、 ここ10年くらいで大慌てしてるんだろうなあ。そんなちくはぐさが露 呈してる。だって、あの「射的」のお店が、3軒もあって、さらにスマ ートボールのお店がまだあるんだもん。「射的」とスマートボールはい かんよ。なつかしいけど。
 市営の外湯とか建て始めているようだけど、新しい所と、古い所の落 差が大き過ぎる。  午前10時。修善寺へ。町の名前のいわれになったお寺だ。  桜がけっこうきれいに咲いていた。  間口は大きかったけれど、奥行きはあまりないお寺だ。  歴史は古いけど、宗派は3回も変わっているそうなので、「○○○宗 総本山」という最大級のキャッチフレーズを名乗ることができない。  その辺の自信のなさが、どうも修善寺温泉郷には漂っているような気 がする。  修善寺の入り口にあった、トイレだけ異彩を放っていた。
 いずれにしても、熱海、別府を始め、古くからの温泉地というのは、 曲がり角に来ていることはたしかだ。  ここらで、いっせいにリニューアルしなきゃいけない時期なんだと思う。 『桃太郎電鉄』もね。はっはっは。老舗ゲームソフトか? 今度はちゃ んとリニューアルだよ。フルモデル・チェンジだよ。  古い温泉地を見るたびに、以前から『桃太郎電鉄』を活性化させたか った。毎年発売だと、なかなか新しくするヒマってないからね。  きっと修善寺も、毎年の整備に終われて、俯瞰から物を見ることがで きなくなっているのだろうなあ。ジャンプする前は、かがまないと、遠 くまで飛べない。 「あさば」のように、個別では独自の世界を構築している旅館もあるの だから、ぜひとも、町ぐるみで新しい修善寺作りを完成させてほしいも のである。  修善寺界隈の土産物屋を歩く。美味しい物も、黒米もの(黒米飴、黒 米せんべい、黒米あんぱん)とか、特産品の椎茸を中心に据えようとし ているのは、わかるのだけど。話題に上るほどの、美味しい物は見つか らなかった。あきらかに、「キティちゃんの踊り子」のほうが、目立っ ていた。  最近、キティちゃんは、ちょっと観光地に進出しすぎ!
 午前11時。おそば読本に載っていたお店「朴念仁(ぼくねんじん)」 があったので、入る。さすがにまだ満腹で、食べ切ることができなかった。 このお店の天せいろの「天」は、桜えび。桜えびのかき揚げは、甘味が あって、美味なり。せいろも細い麺で、存在感のある麺だ。おつゆはも うひとつ。でもこのあたりでは、ずば抜けた美味しさとして、出色の出 来だろう。
 午前11時55分。「あさば」に戻って、荷物を持って、修善寺駅へ。  またしても、あと2分で、電車が出てしまう。なんだか忙しい。  午前11時57分。修善寺駅発。おなじ経路を戻りたくないのだが、 終点の三島駅からちょっと行ってみたい場所がある。  きょうの旅程を決めるときに、もうひとつあったアイデアは、修善寺 から、天城峠を越えて、『伊豆の踊り子』の七樽の湯を通って、河津に 出るコース。この古典的な観光コースも魅力的だったのだが、昨夜、ふ かふか布団で早く目が覚めてしまって、寝不足ぎみなので断念。  寝不足のときに、ぐるぐる山道を回ると、三半規管がおかしくなって、 酔ってしまう。もっと体調万全のときに、天城越え〜伊豆の踊り子コー スをたどってみたい。  午後12時31分。車中、気持ちよく眠りながら、三島駅着。  昨日降りることのできなかった南口側に降りる。北口の何もなさには 驚いたが、南口も決して栄えているとは言い切れない。  ここから、なんと箱根をめざす。   別に驚くことはない。国道1号線が、芦ノ湖に向って延びているのだ から、立派な『東海道五十三次』である。iモード・ゲーム『さくま式 東海道五十三次』で、私は毎月53宿について、一宿場ずつエッセイを 書いている。  それでも足掛け3年の連載になるので、そろそろ行っていないところ を補充しておかないと、そのうちネタが尽きてしまう。  というわけで、きょうは箱根の関所をめざすのだ。
 午後1時。芦ノ湖着。  もちろん箱根湯本や、芦ノ湖には、過去何回も来ている。彫刻の森美 術館など、過去通算何人の女の子とドライブで行ったかわからないほど 行っている。  なのに、箱根の関所だけは行ったことがないし、場所もわからない。  だからこうして芦ノ湖まで来たのだが、箱根の関所後は、芦ノ湖の遊 覧船乗り場のすぐ近くにあるというではないか。  へ〜〜〜、てっきり私は箱根の山の頂上にあったのだと思った。  こんな湖畔にあったら、泳いで芦ノ湖を抜けた旅人は多くなかったの かなあ。 「入り鉄砲に、出女」と呼ばれて厳しい取締りをした箱根の関所とは思 えない場所だ。 「関所跡資料館」。入場料300円。
 最近こういう資料館得意のマネキンをつかって、関所の歴史を伝える 方式の博物館だ。  でもなんだかあっさりしていて、物足りない。  どうもこの「関所跡資料館」は、これから大々的に開発して、もう一 度箱根の関所に脚光をと、現在鋭意工事中なのだった。  あちこちに、「箱根関所跡予想図」という看板があって、相当大規模 なエリアになるようだ。いまもクレーン車やパワーシャベルが元気に土 を掘り起こしている。
 それにしても、きょうも暖かいはずなのに、箱根は標高が高いために、 めちゃくちゃ寒い。がくがくするほど寒い。もう帰りたいところだが、 もうひとつ、「箱根関所資料館」だけは見ておきたい。  いわば、こっちは旧館のようだ。  その分、資料が充実していて、興味深い資料がたくさんあった。  この箱根の関所は、1619年に、日本最初の関所として、徳川家康 が設置したそうだ。またしても徳川家康である。徳川300年の間、歴 史上のたったひとりが作ったシステムを、のべ何億人という日本人が守 り通したのだから、徳川家康という人は、西洋のキリスト並みの存在だ ったといっても、過言ではない。    この関所は、明治2年(1868)に廃止された。  その間、関所破りをして、極刑を喰らったのは、5件、6人しかいな かったそうだ。約250年の間に、わずか6人というのは、ちょっと意 外でしょ?  何でもこの箱根の関所を治める小田原藩が、関所破りをしようとした 人間を、道に迷ったこととして処理して、追放処分という軽い処分にし てあげていたようなのだ。昨日の江川太郎左衛門さんといい、けっこう 江戸時代のお役人さんも、話のわかる人が多かったようだ。  いまの政治家に見習ってほしいものだ。  関所と芦ノ湖の間の土産物屋を見て歩く。  どうもどの土産物にも、新しいものがなく、まだ温泉まんじゅうに頼 っているところが悲しい。寄木細工が名物のようなのだが、その工芸品 のセンスの悪さは、ちょっと重症である。  寄木細工の手法自体は、手の込んだ仕事なのだから、尊敬すべきもの なのだが、もっと買いたくなる、部屋に飾ったときに、浮かないような デザインにしてほしいものだ。  午後2時25分。湯河原駅に出る。  湯河原も古い温泉地だから、商店街がみごとに死んでいる。  シャッターが閉まったままのお店が多く、最近この手の商店街のこと を「シャッター商店街」と呼んで、揶揄することが多い。  午後2時29分。東海道本線で、東京に向う。  またまた車中、熟睡。時折、車窓から桜の開花を眺める。  実は、桜の時期は、長距離電車に乗って、沿線の桜を愛でるのが、け っこう特等席だったりする。  桜の名所は、開花と同時に、酔っ払い軍団が押し寄せて、桜の美しさ を潰してしまうからね。電車のなかから眺める桜は、山の急斜面に咲い ているから、酔っ払いたちが近づけない。  私のお勧めとしては、京都から豊岡に向う山陰本線。東北新幹線の北 上あたりの桜が隠れた桜のビュー・スポットである。  午後3時29分。ちょうど1時間で、藤沢駅に着く。  藤沢駅の小田急デパートをちょっと覗いて、江ノ電藤沢駅へ。  午後3時48分。江ノ電に乗って、長谷駅をめざす。  午後4時すぎ。長谷の家に着く。家に入る前に、由比ガ浜の海を眺める。
 春休みに入ったので、ウインド・サーフィンに興じる人が多い。遠く 材木座海岸あたりにも、人出が増えているようだ。  長谷の家で、しばしくつろぐ。  だいぶこの家が馴れてきた。  部屋のスイッチを探さずに、無意識のうちに、スイッチを押せるよう になって来た。まだまだ膨大な本は、本棚に入りきらずにいるけど…。  午後6時。海沿いのドイツ家庭料理のお店「ニューキャッスル」に初 挑戦。  ソーセージの盛り合わせ、ホットローストビーフなど、食す。  美味しかったのだが、店のドイツ人の老婦人に、撮影はダメと言われ たので、料理を紹介することができない。
 土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、成沢大輔くんの、21世紀 三大酒飲みにふさわしいお店だと思っただけに、デジカメできないのは、 ちょっと残念。  午後7時30分。長谷の家に戻る。  昨日の日記を書いたり、本を読んだり、TVを見たり。  このところ、つかのまの平穏なので、休めるだけ、休んでおく。  今週末から、東京ゲームショウ。来週から『桃太郎02(仮)』のテ スト・プレイが始まるから、また忙しくなる。  今夜の私は、鎌倉の老人。
 

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