3月17日(土) 

 鎌倉の家、初宿泊!
 朝早く目が覚めてしまったけれど、まあまあよく眠れたほう。

 午前中。『桃太郎電伝(仮)』の仕様書作り。
 昨日、ゲーム・ディレクターの國政修くんが思いついた、方向転換で、
また一歩大きく前進することができた。このところちょっと煮詰まって
いたけど、鼻詰まりがすっきりしたような突破口だった。
 しかし、依然として花粉症は、鎌倉に来ても、ひどい。
 山が多いところだから、仕方ないか。
 家族3人、花粉症で、朝から会話が「ふんが、ふんが…」。

 午後12時。鶴岡八幡宮から東に行った稲荷山の浄妙寺へ。
 バス停は、浄明寺。町名も浄明寺なのに、お寺の名前は、浄妙寺。と
ても妙なり。いや、お寺に寄っている場合ではない。
 石窯ガーデンテラスという、パンを窯で焼いて食べさせてくれるお店
にこれから行くのだ。この浄妙寺が、その目印なのだ。

 あれ? 「石窯ガーデンテラス こっち→」という矢印の方向に行く
と…、へ? 浄妙寺の受付けに出てしまうぞ。拝観料100円と書いて
ある。
「石窯ガーデンテラスに行きたいんですが…?」と聞くと、「拝観料を…」
と言われる。別に私たちはお寺を見たいわけじゃない。パンが食べたい
のだ。
 えっ? お寺のなかに、石窯ガーデンテラスがあるから、拝観料100円
が必要なの? え〜? 変なの〜。
 しかも、本堂の脇を抜けて、隣りのなんとかという場所の裏の道を登
って行って、5分ほどで…と言うではないの。そんなに遠いの? すで
に雨が降り始めていて、こっちは傘を持って来ていないのだ。
 釈然としないまま、きれいなお寺の本堂を通って、枯れ山水の美しい て、おいおい! 私がいちんばん苦手な、石段ではないか! これを登 れってか? どうもそのようである。  ありゃまあ。登山ののち、パン屋さんというのは、ますます釈然とし ないけど、ここまで来たら、従うしかない。  ひいひい。ふうふう。ひいひい…。ふうふう…。  まわりの木々にきれいな花が咲いているけど、それどころではない。  雨もどんどん激しくなって来た。  ふうっ。着いた。足がくがく。息あがる。  でも、明るいレンガに白い壁のおしゃれなお店だ。  店内も白木が多く、庭からは鎌倉が一望できる。    嫁と娘は、ポトフのセット。  私は、サンドイッチ・セット。  サーモンにハムのなかなか美味しいサンドイッチだ。  何よりやっぱりパンがふかふかで美味しい。
 実にいいお店だが、お寺の拝観料払って、さらに拷問の石段を登って、 このお店に来るのはちょっとなあ。でも天気のいい日だったら、もう一 度来てみてもいいと思えるくらい、いいお店だ。  それが証拠に、お客さんはひっきりなしに訪れる。  お店の人の接客もいいせいだろうな。    食後、外に出たら、少し雨が小ぶりになって来た。  ようやくまわりの木々を見る余裕が出てきた。  へ〜、大きな椿が木にいっぱい花を咲かせているなあ。  ピンクの梅が、鮮やかだ。  なるほど鎌倉が花の町と呼ばれるのは、こういうことだったのか。
 しばらく行くと、来るときに見た、日本庭園が目に入る。
 おお! 枯れ山水が見事だなあ。  赤い日毛氈も美しい。  抹茶と和菓子がいただけるのか。  やっぱりいただいて行くでしょう、この家族は。  お寺の抹茶と和菓子のセットは、ひとり500円なのが、全国共通だ なあ。奇妙なほど統一が取れている。  喜泉庵(きせんあん)というのか。  非毛氈にすわって、しばし庭を眺める。
 雨が降ったあとの庭というのは、実にきれいなものだ。  木々の緑色が、ぐっと鮮明になるからね。  まさに「静謐(せいひつ)」という言葉がふさわしい庭だ。受験生時 代に、難読文字として「静謐」という字を覚えたが、読めこそすれ、書 けないなあ。ははは。言べんに、必に、皿か。けっこう楽な漢字だっ たのか。悔しいなあ。  庭に水琴窟があって、縁側から長い竹を通して、音を聴くことができる。  ほう。ほかのお寺によくある水琴窟より、大きく聴こえる。音の数も 多く感じられるのはなぜだ?  午後2時。材木座の来迎寺へ。  雑誌に黄色いミモザが、まるで枝垂桜のようにたわわに咲いている写 真が載っていて、そのミモザの満開がここ2〜3日で終わりだというの で来てみた。  雨にもかかわらず、この花を目当てに来た人がたくさんいる。  でも雑誌の写真で妄想が大きくなりすぎていたせいか、お寺の入り口 に、ちょこちょこっとミモザが咲いている感じで、見上げるような大木 に咲いているという雄大さはなかった。
 でも、ミモザの花っていうのは、きれいなもんだねえ。  こんなに繊細で美しくて、透き通るような黄色の花とは、知らなかっ たよ。  どちらかというと、私は「ミモザ」というと、場末の紫色の看板のし ょぼくれたスナックの名前のイメージが強い。そんな貧困なイメージだ っただけに、このミモザの美しさには、つくづく驚いた。    午後2時。藤沢駅の東急ハンズに行く。  鎌倉の家、初日にして、想像していなかった備品の必要性がたくさん 出てきた。お風呂のイスとか、部屋が多いので、電気スタンドとか、壁 掛け時計、テーブルタップが必要とか、住んでみないとわからない物が 多い。  またたくまに、荷物だらけになったので、いったん戻ることに。  午後4時。長谷の家に戻る。  ベッドに横たわった瞬間、爆睡。私にしては相当歩いたからなあ。  午後5時。目が覚めると、家族がいない。鎌倉に買出しにでかけたよ うだ。  午後6時30分。江ノ電で鎌倉駅に出て、家族と合流。またまた嫁と 娘は大量に荷物を抱えている。引っ越した当初というのは、こういう景 色になってしまうものだ。  小町通りの「こ麦や」で、食事。 「いまどきのうどんや」というキャッチフレーズが書いてあって、ここ の名物は、「八丁味噌のビーフシチューうどん」!  そりゃ、名物でしょうなあ。もちろん家族3人とも、八丁味噌のビー フシチューうどんを注文。  注文したあと、ちょうどテレビ長崎の山本耕一から電話が入る。おお!  ニューヨークへの新婚旅行から帰ってきたのか。奥さんが「ニューヨーク で食べたどのレストランよりも、プティポワンの料理が美味しかったです 〜!」と。  そりゃそうかもしれないが、ちょっと罪作りなことをしてしまったかな?  それにしても、成田から飛行機に乗るときも、電話をくれたし、こうし てまた成田に着いたときも、電話をくれる。  本当に、立派になっちまったなあ、山本耕一は! いい嫁さんが来るの も無理はない。
 八丁味噌のビーフシチューうどんを食べる。  ほう。けっこう美味しいぞ。豆腐が入っている。豆腐の味がいい。かな り美味しいぞ。おお! 長い焼きネギだ。焼いたネギは美味しいぞ。平た い麺は、そこそこだけど、総合評価では、◎。  なんだかこのところ、鎌倉で初めて食べるお店は、全部当たりだなあ。  午後8時。長谷の家に戻る。  だいぶ家が馴染んで来た。でもまだまだ本棚が片付かない。片付けなが ら、読みたい本を脇に寄せておくと、そこが山になって行くだけ。  例によって、家族3人、バラバラの部屋で黙々と本を読む。たしかに不 思議な家族である。
 

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