３月９日（金）

　午前中、『桃太郎電鉄Ｘ（仮）』の手直し作業。

　午前１１時３０分。嫁と、築地の「アッシュ・ド・ヴァン」で、
おそば懐石。

　午後１２時。築地のハドソンへ。
きょう最初の打ち合わせは、なんと！　ＪＴＢさんと。あの旅行代理
店…という言い方でいいのかな。旅行会社という言い方がいいのかな？　
とにかくあの有名な、誰もが知っている、ＪＴＢさんである。

　ＪＴＢの高橋秀幸さん、平原賢太郎さんと、ある企画について、
打ち合わせ。高橋秀幸さんが、学生時代、熱烈な『桃太郎電鉄』の
ファンというのが、いまのところ言える範囲内ぎりぎりのヒント。

　どうもこのところ、『桃太郎電鉄』をめぐる、いろんなおもしろい
企画が次々に持ち上がって、どれもこれも検討中なので、内容につい
て具体的に触れることができない。とにかく、かなりビッグな話ばか
り来るので、どこまで期待していいのかさえ、非常に戸惑う。
　こういうとき、血液Ａ型の男はだいたい、話の規模が１０分の１に
縮んだときのことを想定して、目算する。それでもこのところ続々舞
い込む話は。規模の大きい話が多い。

　午後１時。土居ちゃん（土居孝幸）が到着。『桃太郎電鉄』フリー
クの高橋秀幸さんが小さな声で「おお！」と叫んだのを、私は聞き逃
してないぞ。最近、こういう高橋秀幸さんのような、学生時代に『桃
太郎電鉄』にはまったという人と会うことが多い。一様に、緊張して
いるのがほほえましい。
　私だって、デビュー当時、手塚治虫さんや、萩本欽一さん、武田鉄
矢さんといった人たちと会ったときは、緊張したものだ。

　ＪＴＢの人たちが帰ったあと、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎
くんから、数々の懸案事項、進行中の案件、実現性は薄いけど、チャ
レンジ中の話などを、たくさん聞く。
　この話は「ＯＫ！」、その話は「いまはとても忙しくて、無理！」
とか、答えていく。ほとんど気分は、県知事、都知事である。

　午後２時。柴尾英令くん、到着。
　今度は、私のほうから、梶野竜太郎くんに対して、『伊吹童子（仮）』
のプレゼンテーション。
　作製してきたＭＡＰ、仕様書などを渡して、ゲーム内容を伝える。

　基本的に、ゲーム化の方向で、話を進めることが決定する。
　もしここで拒否されたら、この『伊吹童子（仮）』はどうしても私
が作りたかったゲームなので、ほかのゲーム・メーカーに売り込みに
行かなければいけなくなる。…となると、今後予定されていたゲーム
は、すべてストップして、来年以降の桃太郎シリーズは、完全に消滅
するところだったので、私にとっても、ハドソンにとっても、いい結
果になった。

　正直言って、このゲームの製作が通らなかったら、ゲーム作りは
『桃太郎電鉄Ｘ（仮）』で終わりにするつもりだった。

　何たって、このゲームに関しては、私と土居ちゃん（土居孝幸）の
間では、すでに敵キャラのデザインまでスタートしていたからね。
　というより、もう何年間にもわたって、土居ちゃんとこのゲームに
ついては、ディスカッションしてきたのだ。何度も何度も作っては、
中座して、また作り始めるということを繰り返してきた。
　だからこそ思い入れは、限りなく深い。

　というわけで、本日より、『伊吹童子（仮）』の仮称は、『桃太郎
電伝（仮）』へと、進化する。
　まだ『桃太郎電伝』と決まったわけではないのだが、いちばん希望
している名前ではあるので、今後は『桃太郎電伝（仮）』と呼ぶ。ど
うもいまだに『伊吹童子（仮）』だと『鬼武者』を連想する人が多い
んでね。
　まあ、うちが『鬼武者』みたいなのを作ったとしても、金城武くん
に、オナラ攻撃でもしてもらわないといけないから、実現性はまった
く薄い。

　というわけで、改めて、現在製作中のゲームのおさらい。
　
＜現在製作中のゲーム一覧表＞
・桃太郎００……………桃太郎まつり→完成済み。
・桃太郎０１……………桃太郎電鉄Ｘ（仮）
・桃太郎０２……………桃太郎０２（仮）
・桃太郎０３……………桃太郎電伝（仮）
・桃太郎０４……………桃太郎電鉄１１
・桃太郎０５……………桃太郎大全集（仮）

　中座した『桃太郎大全集（仮）』が、桃太郎０３から、桃太郎０５
に変更になった。今後も続行していくことは間違いないので、お忘れ
なきよう。
　たまに、この日記を読んでる同業者から「さくまサン、あんな風に
日記で、極秘のラインナップを書いてしまっていいんですか？」とい
われるけど、こういう風に書いておかないと、土居ちゃん（土居孝幸）
が、いま何のイラストを描いているのか、わからなくなってしまうの
だ。ははは。
　さらに、サザンオールスターズのベーシスト・カズ坊（関口和之）
のための伝達にもなっている。カズ坊（関口和之）は、３月中旬まで、
ハワイにいるからね。ここに書くことで、ハワイでも、こっちの予定
変更を知ることができる。
　たぶん今度、カズ坊（関口和之）に会ったら「さくまクン、『桃太
郎電伝（仮）』って、なあに？」と聞かれると思うけど、カズ坊（関
口和之）に対して、「あれは『パラ…』のことだよ！」と、ここに書
くことで、世間の人にはわからないように伝えることもできる。
　便利な世の中になったものだ。

　午後３時。ようやく、ゲーム・ディレクターの國政修くんと、『桃
太郎電鉄Ｘ（仮）』の打ち合わせ。
　だいぶ、手直しの箇所が減って来た。

　今週末から、臨時収入のメッセージ書きに、専念できるので、うれ
しい。実は『桃太郎電鉄』シリーズのなかで、いちばん何度も書き直
すのが、臨時収入のメッセージなのである。短い言葉で、お客さんが
思わず食べたくなるように書くのに、四苦八苦している。

　午後５時３０分。『今日のともちゃん』の古川知子が到着。
　本日、これから古川知子の知り合いがオーナーのイタリア料理のお
店に行くことなっている。
　古川知子というのは、先日のあの老舗洋食のお店「たいめいけん」
の次期オーナーと友だちだったりする、変なやつなのである。
　すでに１０年以上続けている、カートでの知り合いばかりなのだが、
古川知子は、生ものがまったくダメ！という稀代の偏食家なので、そ
の知り合いが、とてつもなく有名な人だということを知らずに付き合
っていることが多い。

　午後６時３０分。そんなわけで、土居ちゃん（土居孝幸）、柴尾英
令くん、私と嫁は、古川知子の知り合いである、四谷荒木町にある
イタリアレストランへ行くのであった。

　古川知子からは、ずっと「かるみねサン」という名前で聞いていた
ので、私は勝手に「軽峰（かるみね）さん」という漢字を当てはめて、
覚えていた。ところが、ある日、古川知子から電話がかかってきたと
きに、ＴＶでは榊原郁恵と井森美幸の『お料理バンバン』をやってい
て、そこに出てくるイタリア料理のシェフの名前が「カルミネ・コッ
ツォリーノ」というではないか！
　イタリア・料理で、カルミネさん？
　おいおい！　ひょっとして古川知子の知り合いというのは、このイ
タリア人のカルミネさんのことではないのか！？
「ちょ、ちょ、ちょっと古川知子！　フジテレビをつけてみろ！　ひ
ょっとして、古川知子が紹介したいと言っていた、軽峰（かるみね）
さんというのは、この人のことかあ！？」
「あっ！　そうです。そうです。この人です。てへへ！」
「てへへ！」じゃないだろ！　またか、古川知子！　ことの重大さに
気づいていないぞ！　とんでもない有名人ではないか！
「え〜！　あの人、そんなにすごい人なの〜〜〜！」

　お店は、日本家屋をそのまま、レストランにした不思議な作り。入
り口に「土足のままおあがりください」と書いてある。
　日本家屋の階段を靴のまま上がるのは、妙な気分である。

　午後７時。古川知子が、カルミネさんのほかに、紹介したいという
人が到着。
　その人の名前が、澤地守さんという人で、Ｆ１レーサーのジャン・
アレジとも親交があって、人気料理番組やレストランに食材を提供し
ている『鳥新』の、その道ではとてつもなく有名な人だったのである。
「おいおい、古川知子！　おまえは澤地さんのことを何と言っていた！　
鶏肉を扱っている人とか言ってたぞ！」
　「す、す、すみませーーーん！」
　まったく、いつも古川知子には、驚かされる。
　澤地さんの会話には、徳島の「青柳」、京都の「瓢亭」「嵐山吉兆」
「菊乃井」といった単語が、ごく自然に出てくる。もちろん「プティ
・ポワン」という単語も。
　まるで、私たちが、ホイミ、ベホイミ、イオナズンとスムーズに単
語がいえるくらいだ。たとえがちょっと強引。

　いやはや、驚いている間も、美味しいイタリア料理に舌鼓。
　イタリア料理というと、もっとこってりした料理を想像していたの
だが、食べやすくて、やさしさにあふれた料理なのだ。
　さすがに、料理名が長いので、暗記できなかったから、料理のほう
は、画像を見てね。

 
 
 
 
 


　嫁は、古川知子が、カルミネさんと知り合いだということを知る前
から、このお店をチェックしていて、いつか来ようと思っていたお店
なのだ。




　そのうちカルミネさんがいらして、ご挨拶。
　やわらかい物腰で、やさしいしゃべり口調。流暢な日本語にウイッ
トに富んだ会話。なるほど、この「カルミネ・エドキャノ」の料理が
やさしい味なのも、カルミネさんの人柄なんだなあ！と納得。

　それにしても、カルミネさんの日本語は、実に達者だ。
「古川知子！　カルミネさんのほうが、古川知子よりも、日本語上手
だぞ！」
「そ、そうなんですよ〜！　よく言われるんですよ〜！　てへへ！」

　酒飲みの柴尾英令くんは、すっかり陽気になって、澤地さんとなか
よくなっちゃってるし、土居ちゃんはワインを飲んで、目がとろ〜ん！
　なんとも、不思議で楽しい宴席。
　他業種の人との会話は、実に楽しい。

　午後１０時。最後は、初対面にも関わらず、澤地守さんに、お酒を
ごちそうになってしまって、カルミネさんからチョコレートまでいた
だいてしまった。
　それもこれも、古川知子のおかげなんだけど、どうもなあ！　古川
知子の事前の説明のいいかげんさを思い出すとなあ…。
　でも、古川知子のおかげで、美味しい料理と、楽しい人に出会えた。
ありがとうね！

　午後１０時１０分。家が近かったので、あっというまに帰宅。
　きょうは『桃太郎電伝（仮）』が、大きく前進したので、ひさびさ
に、ゆっくりお風呂に入って、身体を休めよう。