2月23日(金)

 朝起きたときには、こんなに長い一日になるとは思いもしなかった。

 午前中、3月末発売予定の増刊号『桃鉄ファン』の原稿。
 この日記の旅日記の部分を加筆、訂正するのだが、いつの旅行にす
るか、検討中。『桃太郎電鉄』の制作日記風にするなら、秋田角館の
項かな? 出石皿ツアーも捨てがたい。佐原もいいな…などと、過去
の日記を振り返る。

 午前11時30分。嫁と、銀座一丁目へ。
 読売広告の岩崎誠と待ち合わせ。ひさしぶりだ。
 岩崎誠お勧めの中国料理のお店「過門香(かもんこう)」へ。

 開店時間に合わせて来たんだけど、50人近い行列が。
 な、な、何なんだ、この行列は。
 おばちゃんたちがやたらと多い。
 あとで聞いたら、テレビで取り上げられたそうだ。やっぱりテレビ
の力は大きいなあ。どうしよう? ほかのお店にしようか?と思った
ら、岩崎誠が「たぶん、大丈夫だと思いますよ!」という。え? 何
で?というまもなく、案内の人が「どうぞ! こちらへ!」と。
 え? 前にいた50人くらいの人たちは、どこへ行ってしまったの?

 うわわわわわあっ! 大きい!
 このお店の大きさは一体何だ!?
 映画『ブラックレイン』のセットのようだ。ふつう想像する学校の 体育館より、はるかに大きい! もちろん中華風のデザイン、炸裂だ!    へ〜。まさか銀座の地下にこんな大きな、いや、大規模な場所があ るなんて!  ただただ驚くばかり。  案内された一室自体が、町の中華屋さんの大きさなんだから、もう 唖然とするしかない。
 棒鉄貼セットを注文。大きくてぷりぷりの海老が入った大きな餃子 を5切れくらいに切って出た。これがジューシーで美味しい。  岩崎誠から、お粥が美味しいと聞いていたのだが、ほんのり甘味の ある、これはなるほど美味しいお粥だ。  店を出る頃には、さらに多くの行列ができていた。  さすがにこの行列は、店内に入りきれずにいる人たちだから、待ち 時間長そうだなあ。  食後、東銀座の「茜屋珈琲店」へ。  軽井沢の駅前にもある、老舗珈琲店だ。  ここでようやく、岩崎誠とゆっくり話すことができた。  しばらく会っていなかったので、聞くことも多い。 「岩崎! 他社に移るって噂が出ていたけど、本当?」 「え〜、そんなこと無いですよ。じゅうぶん今、楽しく仕事してますもん」 「岩崎って、ほんと、噂立てられやすいよなあ!」 「ほんとですよねえ!」  岩崎誠の他社移籍の噂を聞いたみなさん、誤報でありました。
 あとはお互いの近況報告。岩崎誠から、DVDを2枚もらう。おお!  ほしかったやつだ。業界通の岩崎誠だから、もちろん、まだ発売前の やつ。  おっと、もう出勤の時間だ。  午後1時。築地のハドソンへ。途中、ハドソンの工藤裕司会長に ばったり。 「いま、『桃太郎まつり』やってるところですけど、おもしろいですね!」 と言われる。会長ははっきり物をいう人なので、素直にうれしい。  会議室に入ると、壁に『桃太郎まつり』のポスターが貼ってあって、 『桃太郎まつり』の発売日が近づいて来ていることがわかる。  土居ちゃん(土居孝幸)が、いよいよ『桃太郎電鉄X(仮)』用の イラストを提出し始めた。今回『桃太郎電鉄X(仮)』は、イラスト の量が尋常じゃないけど、土居ちゃん、大丈夫かな。  サザンオールスターズのベーシスト・カズ坊(関口和之)と、 『桃太郎電鉄X(仮)』の音楽を正式に依頼。かなりたくさんの曲を 書いてもらえることに。
 カズ坊(関口和之)はこれから取材があるそうなので、退席。  ゲーム・ディレクターの國政修くんと、『桃太郎電鉄X(仮)』の 九州マップ部分の最終訂正。  午後3時。おや! スーツ姿の柴尾英令くんが登場! おんや、正 装じゃないかい! きょうこのあと、みんなでクラシック・コンサー トに行くことになっている。
 しかし、正装して来たのはいいけど、いつもの登山家のようなバッ グはどこへ行った! コンピュータと、デジカメと、モバイルと、本 と仕様書がたくさん入ったバッグはどこへ! 「きょうは、ほれ! メモ帳だけですよ!」  極端なやつだあ!  でも、本当にメモ帳だけ持って来て、筆記用具を忘れてくるとは、 いかがなものか! 土居ちゃん(土居孝幸)も「さくまサン、シャー ペンの芯、持ってません?」「持ってるよ!」「ください! 1本で いいですから!」「土居ちゃん、2本くらい持ってけよ! ここで2 本つかい切るくらい、デッサンしろ!」「ううっ!」  なんとまあ、きょうは緊張感のない職場だ。 『桃太郎電鉄X(仮)』のほうの、手直し部分が一段落したせいだ。  でも、来週、國政修くんがまた札幌に行くので、たくさん宿題をか かえて帰ってくるのだろう。  午後5時30分。嫁に東京駅まで行って買ってきてもらったお弁当 をみんなで、食べる。うちの娘も到着。  きょうはこれから、ハドソンからほど近い、浜離宮ホールで、すぎ やまこういち先生ご夫妻が協賛されている「アマデウス・アンサンブ ル東京」を聴きに行く。   アマデウス(モーツァルト)といえば、もちろん朝枝信彦さんである。  すっかり朝枝信彦さんを通して、クラシックが身近なものになりつ つある。  だから、きょう、柴尾英令くんが正装して来ているのだ。    午後6時30分。浜離宮ホールへ。  メンバーは、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、ポニーキャ ニオンの系図マニア・けーむらクン、國政修くん、菅沼真理(通称: すがねまチャン)さんもやっぱり正装。蔵人総合研究所の赤根豊くん 夫妻。うちの家族。  みんな初めてのクラシック・コンサートなので、気合が入ってる。  クラシックにくわしい人たちに、きょうの演目…、演目じゃ、お芝 居だよなあ。何ていう言い方をするのかな。ふつうに、曲目でいいの かな。まだまだこんな段階。 ・交響曲 第26番 変ホ長調KV184‘Overture’ ・ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ長調kv211 ・交響曲 第38番 ニ長調KV504「プラハ」  いやあ。ほんとに美しいメロディと、弦の響きだ。  まるで、朝枝信彦さんの頭の上で、天使が何人も舞っているような、 そんな気分にさせてくれる。  休憩のとき、みんなに「どうだった?」と聞くと、一様にみんな クラシック・コンサートに対する偏見が取れたようだ。  朝枝信彦さんの、うれしそうに、悲しそうに、せつなそうに、いと おしそうに弾く姿と音に、みなさん、感動の様子。  メタルスライムを倒したときの感動と、経験値アップといった感じ だな。  また「きょう放送作家の福本岳史くん、誘ったんだけど、『桃鉄フ ァン』の仕事で忙しくて来れないと言っていたけど、壇上でバイオリ ン弾いてたよな〜」というと、「前列2番目の人でしょ?」とみんな がいうくらい、似ていたので、大笑い。  大笑いはちょっと相手の方に失礼だな。  福ちゃんは、幼少のみぎり、バイオリンを習っていたというから (写真参照)、あのままバイオリンを続けていたら、あの方のように なっ…なりはしないな。ははは。会場での写真撮影禁止がくやしいく らい、福ちゃんに似てた。
 午後9時。終演。みんなの顔色が、つやつやしているのが、おもし ろい。  クラシック・コンサートは、お肌を活性化する作用があるようだ。  みんな帰りがたいようなので、神宮前の「ブルドッグ」へ行くことに。  午後9時30分。神宮前「ブルドッグ」。  土居ちゃん、柴尾英令くん、けーむらクン、國政修くん、すがねま チャン、うちの家族。  たしか成沢大輔くんが、今夜、札幌、函館の取材から帰ってきてい るはずだというので、「成沢を呼べコール!」がかかる。  しかし、北海道から帰ってきたその日に、何本も打ち合わせが入っ ていて、来れないという。えらいなあ。男の子だなあ。旅行から帰っ て来た日に、仕事入れたくないもんなあ。
 映画『007』シリーズのロジャー・ムーアのほうで、いちばん おもしろいやつが思いだせないと、みんなで苦しむ。 『死ぬのは奴らだ』『黄金銃を持つ男』『私を愛したスパイ』『ムー ンレイカー』『オクトオパシー』『美しき獲物たち』…。ああ! ど うしてもあと一作が思い出せない。これだけ映画マニアが集まってい るのに。  とうとう柴尾英令くんが、iモードで調べ始めた。 「あ! 『ユア・アイズ・オンリー』だ!」 「そうか、『ユア・アイズ・オンリー』かあ!」と、一同納得。  などという話をしてるうちに、ふと外を見ると、誰かがこっちを見 て、跳びはねて手を振っている。 「あっ! 松ちゃんだ!」  ゲーム攻略本製作会社の最大手・キャラメルママの社長、松本常男 くんと、キャラメルママの金庫番、石田綾子さんだ。  スピーカーのように、大きな声で、機関銃のようにしゃべりまくる 松本常男くんが入ってきた。 「お店のなかに、さくまサンにそっくりな人がいるんだもん。驚いた なあ!と思ってたら、隣りに、土居ちゃんにも、そっくりな人がいる じゃない! ふたりもそっくりな人が並んでお店にいないよなあ!と 思ったら、ほんとにさくまサンなんだもん! ワーワー、ギャーギャー!  ぺちゃくちゃ! ガガガガガッ!」 「松ちゃん! 私たちはみんなで、たったいま、おモーツァルトのコ ンサートを聴いてきて、高尚な気分に浸っているんだから、松ちゃん のようなお下劣な会話をする人が来ると、こまるなあ…。ははは!」  もう20数年来の腐れ縁だから、いくらでも憎まれ口を叩ける。 「あ、そう! すみません! わっはっはっはっは。ところでさ、最 近自分でも枯れてきちゃったと思うけどさ、それでも電車のなかで、 女の人の胸が腕にあたると、きゅんとして、1日ずっと幸せだよなあ…。  ワーワー、ギャーギャー! ぺちゃくちゃ! ガガガガガッ!」
 やっぱりお下劣トークになってしまった。  キャラメルママの金庫番・石田綾子さんとは、本当にひさしぶりだ。 「綾ちゃん、なつかしいねえ!」 「さくまサンと会うの、20年ぶりぐらいじゃないですか?」 「え〜、まさかあ…。あ、ホントだ! やだねえ!」 「結婚されたそうで…」 「もう11年になるよ、ほら、そこに家族全員いる!」 「え〜〜〜!」  最近ひさしぶりに会う人が、10年ぶりとか増えて困る。 「ワーワー、ギャーギャー! ぺちゃくちゃ! ガガガガガッ!」  まだ松ちゃんのマシンガン・トークが続いている。  すがねまチャンが、涙を流して笑っている。  初対面の人たち相手に、しゃべり続けられる松ちゃんって、これも やっぱり才能だよな!  そのうち、どこでどういう連絡がついたのか、ヤングサンデー編集 部の石川享くんまで到着して、さらに人数が増える。石川享くんから、 今年のお正月、世界一周の旅をしたときのお土産をもらう。
 つくづく豪快な人たちの集まりである。  こういう変な人たちとの会話が、いちばんおもしろい。  あっというまに、午前0時。  私は健康を考えて、帰ることに。昔のように朝まで付き合えない。  うちの家族を除いて、全員まだ帰る気配なし。  このメンバーでの会話は楽しいもんなあ。  菅沼真理(通称:すがねまチャン)さんは、午後10時くらいまで なら、ごいっしょできますが…と言って、ついて来たはずなんだけど なあ。
 

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