1月7日(日)

 お昼12時。
「急げ! 急げ! 間に合わないぞ!」
 近所の「アフタヌーンティー」で、チキン&チーズに、ショコラ
チャイを流し込んで、タクシーに乗り、家族3人、新宿厚生年金会
館へと急ぐ。
 きょうは『サクラ大戦 帝国歌劇団 新春歌謡ショウ』があるのだ。

「ふうっ!」
 よかった。時刻は午後12時45分。1時の開演になんとか間に
合ったあ。
「おや?」
 開演ぎりぎりだと、私たちのように駆け込んでくるお客さんたち
って、全然いないの? ポスターも貼ってないぞ! コスプレした
子たちも全然いないぞ! まさか!? 場所を間違えた? パンフ
レット! パンフレット!

 ひえ〜〜〜い! 青山劇場だったあ!

 新宿厚生年金会館の前でのんびり停まっているタクシーを急がせ
て、青山劇場に向う。
「運転手さん! 遠回りでもいいから、早く着く道を!」
 頭のなかで、『太陽にほえろ!』の音楽が流れる。
 運転手さんは巧みに、混雑していない道路を走り抜ける。おいお
い! 見慣れた風景だぞ! うちの真ん前の道路じゃないか! ふ
りだしに戻っちまったぞい!
 明治通りから、宮益坂を登って、青山劇場へ。

 午後1時。レッドカンパニーの小林さんに「まもなく開演です!」
と言われながら、座席に向う。ドアを開けたと同時に、明かりも消
える。座席に着くと同時に、幕が開いた。
 ひえいっ! 時限爆弾をあと1秒というところで止めたような気
分だぜ!

 一息ついて、『歌謡ショウ』をじっくりと。
 きょうは、お昼の追加公演。このあと夜の部が、最終公演。
 追加公演だけに、濃いお客さんたちが、前列に陣取っていて、出
演者たちに合わせて、一糸乱れぬ動きを見せる。
 まるで、武田信玄の騎馬軍団のようだ。すごいね。たぶんこのあ
との最終公演のチケットも持っているんだろうなあ。

 第2部は、田中公平さんの素晴らしい曲のオンパレード。
 つくづく古今東西の名曲を身体に染み込ませた人が作る曲はいい
もんだなあ!と痛感する。前奏の段階で、すでに聴く人は、どうい
う感動をすればいいか、準備ができてしまうもんなあ。

 パラパラ風の『帝国歌劇団』に驚いたり、ベテラン田中真弓さん
の上手さに舌を巻いたり、とにかく盛りだくさん。

 圧巻は、何と言っても、花組のメンバーによる、祝い太鼓。
 おなじみの出演者に、太鼓を叩かせてしまう広井王子という男も
すごければ、受けて立ってしまう出演者たちもすごい。
『新春かくし芸大会』のレベルではない!
 並大抵の努力ではできない技だ。
 すべてはお客さんが喜ぶためにという御旗の下に、結束が固いこ
とを証明するような、見事な祝い太鼓だ。

 毎度毎度、密度の濃いこの公演をもう5年も続けている。
 ひとくちに5年といったって、大変なことですよ。
 ロック・グループなら、まず間違いなく解散してる年数だからね。
それをおなじメンバーで、毎回趣向をこらして、続けることは、見
ている側からは、氷山の一角の苦労しか窺い知ることができないと
思う。

 午後4時。終了。まるまる3時間の大熱演である。
 夜の最終公演までにほとんど時間がない。
 でも一応、来たかぎりは顔だけでも出して行くかと、楽屋へ。
 
 楽屋は人でごった返している。
 いつも思う。出演者たちは、舞台が終わっても、こうして楽屋を
訪ねてくるお客さんたちの相手もしないといけないのだ。体力も必
要だけど、精神力はもっともっと必要だ。

 田中公平さんがいた!
「やあ、昨日のお蕎麦、美味しそうでしたね!」
「ん? ああ!」
 京都で食べたお蕎麦屋さん「なかじん」のことだ。
 ここだよ、プロのすごさは。
 公演中なんだから、他人のホームページなんか見る余裕などまっ
たくないはずなのに、昨日の私の日記をチェックしている。
 こういう人が書く曲なんだもん。いいわけだ。
 今年の年賀状でも、若い人にかぎって、「最近ホームページを見
ていません。すみません!」とわざわざ書いてくる人がいる。書か
なきゃいいのにと思うと同時に、忙しい人のほうが、世の中の情報
につねに興味を持っていることに気づく。
 すぎやまこういち先生ご夫妻にしても、忙しいときでも、たくさ
ん情報を仕入れているし、私の日記を読んでいてくださって、会う
と話題にしてくださる。
 こういうえらい人たちになりたいなあ。

 広井王子くん、横山智佐ちゃんにもご挨拶。
 いつも広井王子くんは、開演前のひととき、舞台に出てきて、ひ
としきりお客さんとのやりとりをやる。
「すみません、客席のさくまサンに気づかなくて!」
 ねっ。この気配りと礼儀正しさが、広井王子という男をここまで
出世させてた、いちばんの原因なんだよ。ただの大法螺吹きじゃな
いんだからね。
「いや、広井くんが気づかなくて当然だよ! 実は新宿厚生年金の
ほうに行っちゃって、開演と同時に着いたんだよ〜!」
「え〜、何それ〜〜〜!」
「はっはっは。面目ない!」
「わ〜〜〜、ゆりちゃん、大きくなったね〜!」と、横山智佐ちゃ ん。そういえば横山智佐ちゃんは、うちの娘が小学生の頃からずっ と知っているからなあ。  その娘が、5年間も見続けてる『サクラ大戦歌謡ショウ』は、す ごいのひとことで十分だな。うん。  今年の夏の5周年記念公演は、8月10〜18日まで。  ぜひみなさん、見に行ってください!  うちの家族はもちろん行きますぞ!  帰りは、青山の紀伊国屋で買い物をして、ナムコの岸本好弘さん が、年始に確認したというスパイラルホール脇の「高野長英先生隠 れ家」の碑を見て、歩いて帰る。こんなところにあったのか。まさ か柱のなかをくりぬいて碑がなかにあるとは思わなかった。    帰り道、雪がちらちら降って来た。  明日は東京も、大雪のようだ。  すでに、ろう城できる食料も買い込んだ。  今夜は家で、チンゲン菜鍋。  豚しゃぶと葛きりを入れて、ぽっかぽか。  鍋にかぎりますな、寒い日は。  午後7時20分。NHK『いざ、ときむね』を見る。すごい時代 になっちまったねえ! この番組、『北条時宗』を見るための「攻 略ガイドブック」というサブタイトルがついている。  これではまるで、ゲームの攻略本ではないか!? 『北条時宗』は、RPGか?  午後8時。NHK『北条時宗』が始まる。わざわざNHKが「攻 略ガイドブック」の番組を作ったわけがわかった。攻略ガイドがな ければ、全然わからないよ!  私は漫画版『北条時宗』を読んでいたから、かろうじてわかった けど、いきなり主人公の父親が、だまし討ちをするところから始ま っちゃあ、感情移入するのが難しいなあ。  相当、視聴率は低くなりそうだなあ。 「成功に不思議あり、失敗に不可思議なし」というから、物書きと しては視聴率の低い作品のほうが、参考になる。  つらいけど、しばらく見続けよう。  さて、明日の日本列島はいったいどうなってしまうのだろう。  雪に弱い都会を露呈するのだろうか?
 

-(c)2000/SAKUMA-