12月27日(水) 仙台国際ホテルにて。 少し喉が痛い。昨日の光のページェントで雪をかぶり過ぎたかな? 早く目が覚めたが、 風邪にまで発展しないように、何度も寝なおす。 午前9時。B1の「カスケード」で朝食。 ポーチド・エッグにトースト。ありふれたメニューだが、美味しい。 仙台はこのホテルを定宿にすることを決定する。 喉痛い。のどフレッシュを大量使用。 午前10時30分。仙台は駄菓子が有名なのだが、駅のお土産品コーナーで売っている ものはあまりパッとしかものがない。 そのせいでかつては『桃太郎電鉄』の仙台の物件名で、駄菓子屋さんを入れていたけど、 最近は消してしまっている。 ところが、仙台には創業元禄8年とか、明治20年創業といった駄菓子が今も営業して いる。そのひとつの「K」というお店を見て行こうと思った。 するとタクシーの運転手さんが「K」に行くなら、石橋屋のほうがいいですよ!という。 買い物終わるまで待っていてくれるというので、お勧めに従う。 まずは現地の人の意見に乗ってみるのが、得策だ。 で、若林区の「石橋屋」へ。 なるほど古い作りのお店だ。明治20年創業のお店。 店に入ると、試食ができるので、ついひとつまみ。 おっとっと。私と娘の大好物「黄粉(きなこ)モノ」ではないかいや! おいしい!子どもの頃から、黄粉は大好きで、家の黄粉に砂糖をまぶしてはいつも食べていた記 憶がある。 この黄粉に水も入れて、改良を試みて、思い切りまずくしたこともある。 ちなみに『桃太郎伝説』シリーズで、黄粉坊というのが出てきて、本来なら伝承され た妖怪でなければいけないのに、倒すとHPとMPが回復してしまう愛すべきキャラに なっているのは、私が黄粉を好きなせい。 そんなわけで、黄粉玉、あん玉、伊達の味、味噌パン、といったものを買う。 駄菓子もやはり日持ちしないもののほうが、みんな美味しい。やっぱり駅で売ってる ものは、日持ちするからあまり美味しくなかったというわけだ。 午前11時。桜ヶ岡公園の「源吾(げんご)茶屋」へ。 ここは、東北名物「ずんだ餅」の美味しいお店として有名。 でも店先には、「名物ごまだんご」と書いてある。 どうしようかと迷っていると、3種盛り合わせのメニューがあるというので、それに する。 ずんだ餅2.ごまだんご1で、550円。安い! 「う〜〜〜、にゃんにゃ、ほのやわにゃかさは〜〜〜!」 (訳:何だ、このやわらかさは〜〜〜!) まるで、つきたてのお餅。 やわらかいなんてもんじゃない。口のなかで溶けそうだ。 豆のつぶつぶ感と甘さが、絶妙。 駅のお土産用のずんだ餅は、緑色のあんこのお餅といったコンビニの味だが、ここのは いかにも豆を食べている感じがしていい。 ごまだんごのほうも、顔を近づけると、映りそうなくらいテッカテカの黒光りした胡麻 で、これまたやわらかいお餅に、上質な胡麻がほのかに甘い。 またこれで仙台に来たら必ず寄る場所が一軒できてしまった。 誰がここのずんだ餅を何個食べるのか想像するだけでも楽しい。 午後12時33分。やまびこ42号で、東京に向う。 車中今週号の『週刊文春』を読む。 現在数多ある週刊誌のなかでが、やっぱり『週刊文春』の記事がいちばん正確で密度が 濃くて、文章が上手い。 来春に『週刊宝石』が休刊するそうだが、今後も週刊誌の休刊は相次ぐんじゃないかな あ。ひとつの記事に対する文章が、カルピスの薄めすぎみたいなものが多すぎるもん。 けっきょく車中の2時間。ずっと『週刊文春』を読みつづける。2時間も読む記事があ る週刊誌なんて、珍しい。 午後2時36分。東京着。 昨日からずっと雪景色しか見ていないから、雪のない東京が不思議な景色に見える。 何たって尾花沢と新庄は、こんな感じの場所だったからね。 ↑尾花沢 ↑新庄 まあ、一面真っ白ってイメージなんだけどね。 雪景色だけが網膜に焼き付いて、なかなか消えないのだ。 マイナス温度の東北から帰って来て、気温10度の東京は相当暑いんだろうなあと思っ ていたら、これが寒い。 やっぱり暑さ寒さは、風次第だ。 天気予報は絶対、風力情報を流すべきだと思う。冬場だけでも。 自宅に向う車のなかに、サザンオールスターズのベーシスト・カズ坊(関口和之)から 電話が入る。 「さくまクン、関係者受付に行けば、チケット受け取れるようになってるから…」 「あれ、カズ坊(関口和之)、リハーサル中なんじゃないの?」 「うん、今から…」 「きょう初日なんだって?」 「うん…」 「じゃあ、いちばん元気なカズ坊(関口和之)を見ることができるわけだ!」 「うふふふ…」 きょうからサザンオールスターズの年越しライブ「ゴン太君のつどい」が始まる。ひさ びさに年末遅くまで東京にいる私たちに、カズ坊(関口和之)がコンサートに招待してく れたのだ。 でも、こういう風にコンサート当日に、わざわざ電話して最終確認してくれるところが、 いかにもカズ坊(関口和之)らしいやさしさ100%でしょ? 私なんかだったら、コンサートの初日なんか、誰かに電話するなんて余裕まったくない もの。 実はこうして仙台から早く東京に帰ってきたのは、このコンサートのため。一度自宅に 荷物を置いて、横浜に向う予定。 午後3時。帰宅。 たった2日間家を空けただけなのに、寒い〜! 暖房が効く前に家を出ないといけない。 午後6時30分。渋谷から東急で菊名(きくな)駅。JR横浜線で新横浜駅へ。 横浜プリンスホテルの前で、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎くんと待ち合わせ。 うちの娘はまだ勉強合宿から帰って来ていないので、娘じきじきのご指名で、梶野竜太 郎くんが代打でコンサートを見に行くことになった。 今もバンドをやってる梶野竜太郎くんだけに、もう私たちを待っているときからすでに 顔が綻(ほころ)んでいる。 何たって、サザンオールスターズのチケットは、プラチナペーパー以上のものと言われ ているからね。 梶野竜太郎くんは「きょうは本当にありがとうございます! ゆりチャンには本当に感 謝してます!」と言ったきり、あとは「えへ、えへ、えへ!」と、もううれしさを隠しき れない状態。 甘いよ! 梶野くん! まだまだ驚くのは、これからだよ! 関係者受付で、チケットを受け取る。 案内の女性の方に誘導されて、コンサート会場の裏にあるエレベーターで、4Fへ。 「えっ? えっ? えっ?」 梶野竜太郎くんがどこに連れて行かれるの?という顔をしている。 無理もない。私たちが行くのは、センター席でも、アリーナ席でも、スタンド席でも ない。もちろんステージの裏に作られたSB席でもない。 ロイヤルボックス席という、とんでもない貴賓席なのだ! ステージに向って、右側スタンド席の一角に、1ブロック20席ほどの新幹線グリーン 車の座席のようなところが、ロイヤルボックス席がある。 そこが私たちが招待された席なのだ。 「マジすか! マジすか!」 ブルッ! ブルッ! 梶野竜太郎くんは、目が飛び出しそうになりながら、身体を震わせている。 そりゃ、驚くよ。 私はこの業界に何10年も生きてきたけど、3年前にこの席に招待されたときには、 さすがにびびったもん。 名前の「ロイヤルボックス」の通り、まさに皇室の方々が座るような席なのだ。 要するにここは、出演者の家族席。 私の手足が不自由だから、とても3時間近いコンサートを立ちっぱなしでいられない と気遣ってくれるカズ坊(関口和之)が、この席を用意してくれた。 サザンオールスターズのコンサートは、1曲目からずっと最後まで、観客は総立ちの ままだからね。 カズ坊(関口和之)の、憎いまでのやさしさに、いつもいつも驚かされる。「無口の ムクちゃん」というのが、カズ坊(関口和之)のファンの間でのニックネームなんだけ ど、無口な分だけ、いつも行動で友情を示してくれる。 「うわ〜、関口さん、格好いい〜!」 マルチスクリーンで、カズ坊(関口和之)がアップになる度に、梶野竜太郎くんは興 奮している。 「さくまサン、ボク、『桃太郎電鉄〜SOKOZIKARA〜』で関口さんといっしょ に演奏して、ドラム叩かせてもらったけど、あんなすごい人と共演しちゃったんすね! ひえ〜!」 「梶野くん、カズ坊(関口和之)のほうから、このあと楽屋に寄って!と言われたんだ けど、どうする?」 「ま、ま、マジ…、うっ、わっ! ぎえええええっ〜〜〜!」 コンサートのほうは、これから28日、30日、31日と続くから、曲順とかアンコ ール曲は言わないようにするけど、いつにもまして演奏がパワフル! 22年目にして まだ成長するバンドというのも珍しいよ。 桑田佳祐くんが、ステージの隅から隅まで、走る! 走る! もう44歳なんだよ! 何であんなに体力あるの? すごいなあ! 「さくまサン! 日本一のバンドなのに、何であんなに桑田さんって、腰が低いんです か?」と梶野竜太郎くん。 「彼は本気でみんなに感謝してるんだよ! 自分のようなちっぽけな人間を支持してく れた人たちに向って!」 人間も一流を越えたあたりから、腰が低くなって、気配りの王者になっていくものな のだが、桑田佳祐くんの場合、その度合いが桁外れなので、1曲1曲終わる度に「みん な、ありがとうねえ!」と言ってしまうのだ。 サザンオールスターズぐらいになったら、黙々と演奏して終わったって、誰も文句も 言わないはずなんだけど、桑田佳祐くんは来た人全員に喜んでもらいたくて、限界を越 えて歌い、感謝の言葉をいう。 午後10時。いまどき3時間もやっちゃう? ふつう2時間でしょ、コンサートと言 ったら! TBSのプロデューサー・牧さんといっしょに楽屋へ。 さすがに梶野竜太郎くん、楽屋に行けるというとどめのプレゼントに声を失っている ようだ。 サザンオールスターズの事務所アミューズの山本社長、大里会長にひさしぶりにご挨 拶。昔と変わらぬ親しさで、接してくれるし、病気のことを気遣ってくれる。 梶野竜太郎くんが脇で見ていて「さくまサンが、あんなに深々とお辞儀してるから、 とんでもなく偉い人だと予想してたけど、社長に会長! そこまで偉い人とは!」 楽屋に入ると、カズ坊(関口和之)が出てきた。 梶野竜太郎くんが「あんなすごいコンサート終えたばかりなのに、いつもの関口さん のひょうひょうとした顔で出てきてくれるなんて、うれしい!」と興奮している。 それでもにこにこしてはいるけど、相当疲れているようだ。 さくま、カズ坊、梶野くん 「カズ坊(関口和之)! イスに座ってよ!」 「座るとこのまま倒れて起きられなくなっちゃうから、このままのほうが…」 ここまで燃焼してるんですよ、奥さん!…って、みのもんた風の口調になる必要ない んだけどね。 梶野竜太郎くんが「コンサートが終わっても、メンバーはこうやって、いろんな人の相 手をするんすか!? すげ〜〜〜!」 一流の舞台裏は、みんなこういうものなのだ。 サザンのコンサートを見に来ると、こういう舞台に現れない部分で学ぶことが多い。 そして自分の未熟さを痛感させられる。 でもまたこういう一流のお手本を見ることができると、新たな目標を持つことができる から楽しい。 午後11時30分。梶野竜太郎くんに環八のデニーズで食事をおごってもらって帰る。 梶野竜太郎くんが、デニーズに着いてからも頭のなかにずっと 『TSUNAMI』が流れていると言ってたけど、私も家に着くまでずっと『TSUNAMI』が渦巻い ていた。 きょうの『TSUNAMI』は絶品だったよ〜! どんな曲やったか言わない約束だったけど、今年のコンサートで『TSUNAMI』を歌わな いわけないから、これくらいはいいでしょ? この曲を歌ったときのものすごい演出は、バラさないから。本当はバラしたいけど。 明日、おそらく梶野竜太郎くんが、会った人全員にこの 『TSUNAMI』の演出と、ロイヤルボックスの自慢をしていることだろう。 サザンのコンサートが始まって、いよいよ年末最高潮ですなあ。
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