12月16日(土)

 非常に恥ずかしいことだが、いつも私は娘と、ギャグのシミュレーションをしている。
 かつての『ジャンプ放送局』の流行語である「とどかないパ〜〜〜ンチ!」とか「榎
本ぶーちょっちょ、はげボヨヨーーーン!」と言った言葉は、小学生だった娘が考えた
言葉である。
 要するに変な娘である。

 こんな調子の娘だから、たまにこっちが言った言葉を性懲りもなく覚えていて、毎日つ
かう。
「だからおまえは、お笑いの才能がいちばんある!」と言っているのだが、酔っている人
が、「酔っていない!」と言い張るように、お笑いの才能を否定する。

 そんなバカ親子の現在のブームは、「いや〜ん、フレミング!」というフレーズである。
 投手がボールを投げ下ろすポーズで、最後はちゃんと指先が理科の教科書によく出てく
る、フレミングの法則の格好になっていないといけない。
 映画通なら、もうすでに気づいていると思うが、この「いや〜ん、フレミング!」は、
007シリーズの原作者イヤン・フレミングから来ている。
 
 しばらくこの言葉が家庭内ブームになったあと、続編を作った。
「いや〜ん、ヨーステン!」である。
 歴史上の人物ヤン・ヨーステンのもじりである。

 ところがヤン・ヨーステンが浮かんだものの、江戸期の人というところまでは覚えてい
たのだが、正確に何をした人か、思い出せなくなってしまった。長崎出島の通詞さんの名
前だったかなあ?
 こういうときにインターネットは便利だ。調べてみた。
 
 ヤン・ヨーステンは、1600年というから、関が原の戦いの年ではないか。大分県の
臼杵市。今年6月に行った場所だ。そこにオランダ船リーフデ号が漂着した。
 この漂着した船に乗っていたのが、あの有名な英国人航海士ウィリアム・アダムスや
ヤン・ヨーステンだったのだ。
 このあと徳川家康に謁見してウィリアム・アダムスは、三浦按針(みうらあんじん)と
名乗るようになり、江戸に屋敷を与えられた。
 日本橋室町1丁目あたりを、昭和初期まで按針町と呼んでいたのは、この三浦按針のせ
いである。
 さらに、ヤン・ヨーステンが住んでいたあたりが、ヤン・ヨーステンをもじって「八代
州(やよす)町」と呼ばれるようになって、ついには「八重洲(やえす)」と呼ばれるよ
うになったそうである。
 東京駅の新幹線口でおなじみの、八重洲口である。

 そうか。それで昨日へろへろと日本橋界隈を歩いていたときに、「ヤン・ヨーステン」
という名前の居酒屋さんがあったのかあ。

 バカ親子のくだらないギャグから、インターネットでしばし時間旅行をして、充実の
ひとときをすごしてしまった。
 う〜ん。何がお勉強になるのかわからないものだ。

 午前11時。家族3人で、南青山の「アフタヌーンティー」で食事。ベーコンにチー
ズにほうれん草のシアトルサラダにコーヒー。

 食後、嫁は知り合いの家にでかけ、私と娘は散歩しながら自宅まで戻る。

 午後1時30分。さて、きょうも『桃太郎大全集(仮)』の仕様書作り。
 その前にインターネットであちこち覗いてからにしようと、iBookのスイッチを
押す。ほわ〜ん!

 ふむふむ。ゲームデザイナーのとみさわ昭仁くんの12月13日の日記に、アイデアの
打率という話題が載っていた。
 無断転載させてね!

 何でも、若者に「来週までにアイデアを20個提出」という
宿題を出すと、よくて10個。ひどいときは5個しか持って
こないというではないか。

 思わず「わかるなあ! そうなんだよ! そうなんだよ! とみさわクン!」と、
ひとり部屋で机をフォルテシモで叩いてしまった。
 
 さらに、プロとして仕事をする以上、20個と言われたら、
その20個が最低ラインで、達成するのはあたりまえ。30、
40出せて初めて「こいつはやる気があるな」という評価に
つながるのだとも書いてある。

 そうなんだよ、そうなんだよ。
 つまらくてもいいから、20個と言われたら、新人は30個以上出して来ないとい
けないんだよ。
「がんばったけど、アイデアが出ませんでした!」と言って、のうのうと会議に出て
くる若者の多いこと、多いこと。
 アイデアが出なかったら、恥ずかしくて会議に出られなくなって、チームからの脱
退を自ら表明すべきだと思うなあ。

 私の経験からも、このアイデアが出なかった人が、チームに残ったためしがない。
 才能がないという問題ではなく、性格的にこの業界に向いていないと思うのだ。私
が銀行員に向かないように。おそらくほかの職業に適正があると思う。

 このあと、とみさわクンの日記には、アイデア捻出法まで書かれていた。ゲーム、
マスコミ業界をめざす人は、こういうことをするのが仕事だと思って、業界に入って
来てほしいものだ。
 でないと、こういう芸当ができない若者は、私たちベテランのやり方を根拠無しに
否定し始めるので、困ってしまうのだ。

 いやあ。こういう同業者の同意見をみつけると、夏の青空の入道雲を見ているよう
に気持ちいい。最終的に長年業界で飯を食って来た人たちの意見はおのずとおなじに
なるものである。

 いい気分になったところで、私も一生懸命、お仕事! お仕事!
 VAIOの音も軽やかに、カタカタカッタン、カタカタカッタン、ファミレドシド
レミファって、それは森の水車のメロディでしょ?
「いや〜ん、フレミング!」

 午後6時30分。家族3人、表参道にある最近お気に入りの広島風お好み焼きのお
店「格好悪奴(かっこーわるつ)」に行く。
 とん平焼き、お餅入りお好み焼き、いかげそ焼き、にんにくの丸焼きなど食べる。
このお店は安くてお勧めである。ビルの3Fにあるからちょっとわかりづらいが、表
参道の通り沿いにあるから、ぜひどうぞ。難点は、座席数が少ないので、混む。

 午後8時。あちこち寄り道しながら、帰宅。

『桃太郎大全集(仮)』の仕様書が、複雑を極め始めたので、あっちの数値を直した
ら、こっちに書いていた仕様書の数値も直さなければと、ほとんどお役所の戸籍係り
のような忙しさになって来た。 
 こればっかりは、他人にまかせると、全部最初からやり直さないといけないはめに
なったことがあるので、辛抱しながら黙々と耐えるしかない。
 堅忍不抜(けんにんふばつ)、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、隠忍自重(いんに
んじちょう)、冬来たりならば春遠からじ。
 耐える言葉をつぶやきながら、日々研鑚である。

 …などと書くと、聖人君子のようだが、眉根をひそめながら、悶々としてるのは、
貧乏神の金欠攻撃なんてのは、どうだ?なのである。
 どうして私の仕事には、緊張感がない!?

 

-(c)2000/SAKUMA-