12月7日(木)

 困った…。
 先月札幌に行く前に、MXテレビから番組への出演依頼があった。ここまではいい。
 ところが、私は札幌行きで、頭がピンチ状態だったので、何日の収録なのか、聞いたの
に忘れしまったのだ。
 たしか、来週の13日だったか、15日だったか。
 もし13日の夜だったら、バイオリンの朝枝信彦さんのコンサートに行けなくなってし
まう〜!

 あの日は、運悪くスケジュール管理の嫁がいなかったし、私の不自由な左手は、電話を
しながらメモを取ることができない。
 そんなわけで、来週のスケジュールを入れることもできない状態で困っている。FAX
をもらえるというので、安心しきっていたのもよくなかった。本当に困った…。MXテレ
ビの場所すら知らない。

 午前10時。きょうも表参道の「ロイヤルホスト」に出勤。朝のロイヤルホストは空い
ていて、席も自由に選べていい。きょうの会議の予習をする。

 午前11時。嫁と待ち合わせして、築地のハドソンに行くはずが、珍しくも嫁が携帯電
話を家に忘れたので、取りに帰ってから、築地に向う。約束の午後12時に築地に到着は
可能だが、朝からご飯を食べていない。
 いつも日記で私はご飯ばかり食べている印象だろうが、いつも1日2食で、実は世間の
人より、ご飯を食べている回数は少ない。
 ただ毎日お誕生日会のような物ばかり食べているので、勘違いされるのも無理はない。

 どうしようか?と思ってると、柴尾英令くんから電話が入って、20分ほど遅れるとの
こと。おお! ならばご飯を食べてしまおうと、築地のハドソンのビルの裏にある「立花」
へ。
 地下のバーのようなところで、1日10食限定の手打ちそばがあるという看板は見てい
た。お蕎麦ならさほど時間も食うまい。
店名:アッシュ ド ヴァン
 あわてて入ったわりに、なんとも美味しいお蕎麦だ。  これはひょっとして、お蕎麦好きのハドソン名誉会長の工藤さんも、燈台下暗しで、知 らないのではないだろうか。工藤さん! ビルの駐車場側の並びの左の料亭「立花」の地 下ですよ〜。もしこの日記読んでたら、一度行ってみてください!  わさびも、本格的で、ちょっと辛かったくらい。  よほどお蕎麦好きなオーナーが、趣味で打ったのだと思ったら、実は料亭「立花」の直 営店だそうで。築地の料亭なら、ありえる味のレベルだ。  こういうイレギュラーな発見は得した気分だ。  ついでに、柴尾英令くんが遅れているのをいいことに、デザートに水ようかんまで食べ てしまう。水ようかんまで、青山「穂積」で出る水ようかんのレベルであった。
わらび餅も美味!
 これはいいお店をみつけたものだ。  午後12時30分。ハドソンへ。  ありゃ。遅れてるはずの柴尾英令くんのほうが、到着しているではないか! いかん!  いかん!  本日は『桃太郎大全集(仮)』の打ち合わせ。  メンバーは、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、ゲーム・ディレクターの国政修 くん、ハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎くん。  しかしこのメンバーだと話が早い。  懸案事項が次々に、解決して行く。  松戸市役所の「すぐやる課」みたいだ。たとえが古い。  例によって、具体的には書きづらい話題なんだけど「ねえ、柴尾くんは、この○○○○ ○○○○みたいなイベントの場合、確率はどのくらいだと思ってる?」「これはあくまで も、ボクの場合なんですけど、1/16が妥当だと思ってます」「おお! そうだよね!  そうだよね! うんうん!」 「ねえねえ、桃太郎がきんたんの術をとなえた! きんたーーーん!という部分があるん だけど、今回14文字×2行の制限だと、どうしても3行必要になっちゃうんだけど、ど う思う?」 「3行は、嫌ですよね! きんたーーーん!も、叫ぶかぎりは『きんたーーーん!』と、 カッコを入れたいですよね!」 「うんうん。そうだよね、そうだよね!」  すべてが、こんな調子なのだ。
      かつて、うちにもスタッフは何人もいた。しかも私がゼロから手取り足取りゲーム作り を教えていた。  でも、いざゲーム作りを始めると、どうだ。ことごとく私の反対ばかりするのだ。 「別に文章が、3行になってもいいんじゃないですかあ?」 「このイラストは、イヌなの? 猫なの?」 「どっちでもいいっすよ!」 「イヌと猫だと大きくシナリオが変わっちゃうんだけど!」 「そんなのどっちでも大丈夫ですよ!」  今回も『桃太郎大全集(仮)』を始めるにあたって、柴尾英令くんや国政修くんとも、 こういう軋轢は少なからず生じるものと思っていた。一度もいっしょにゲームを作ったこ とがないわけだから。  ところがなぜ意見が合うのだろか?  逆になぜ私がゲーム作りを教えた人たちと意見が合わなかったのか。  かつて『桃太郎伝説』で、うちのスタッフに反対されて、納期が近いからと押し切られ た部分を柴尾英令くんたちに「この部分は、今度こそ、ああしたくてね、ここは、こうし たくてね!」と言っても「それは当然でしょう!」「作り手としては、こっちのほうが楽 ですけど、お客さんが望んでいるのは、こっちでしょうから、こっちにしましょうよ!」 と、あっさり言われてしまう。 「土居ちゃん! この人たち、うちいた人たちと全然違う反応するよ〜! 最初からこの 人たちとゲーム作りたかったよ〜!」 「あの頃は、ゲームを作ったことのある人自体、いませんでしたからね!」 「そういえば、そうだよなあ。ゲーム製作経験者を探そうにも、いなかった時代だもんな あ!」  この10年間苦しんだ日々は、一体何だったのだろう。  くそったれ!  まあ、いいや。愚痴を今さら言っても過ぎ去った日々は帰らない。今度の『桃太郎大全 集(仮)』を楽しく作ることで、その答えを出してみたいと思う。  午後6時30分。土居ちゃん、柴尾英令くん、私、嫁の4人で、銀座のスモーク料理の お店「煙事(えんじ)」に行く。夜来るのは初めて。  柴尾英令くんが、牛たんのようなスモーク・ベーコン、スモーク・チーズをことのほか 気に入る。 「メニュー見ると、ここの人、道楽で料理作ってるみたいだなあ!」と、土居ちゃん。 そう。その通りなのだ。  おっと、話はちょっとそれるけど。この「道楽」って意味、若い人にとっては、悪い意 味でつかう単語なの?  私たちの年代で「道楽」っていう言い方をする場合、尊敬の意味も含んだ意味合いなん だけど。かつて私が『チョコバナナ』という本を出版したとき、「この本は私の道楽で作 ってる」という言い方をしたとき、若者から「さくまサンは、そんな気持ちであの本を作 ってたんですか!」と言われたもんでね。  私にとっては、損得を度外視して打ち込むもの=道楽だと思っていただけに驚いたこと がある。  なんだかきょうの会議で、おなじ言葉をおなじように感じられる人との会話と、おなじ ように感じることのできなかったうちのスタッフとのやりとりの違いを思い出して、ふと、 気になった。  午後9時。帰宅。  本日より、数日間、身体を休めるトレーニング。  ビデオを見て、DVD見て、たまっていた本を読む。  休むのもお仕事!
 

-(c)2000/SAKUMA-