11月25日(土)

 札幌滞在5日目。

 昨日もまた眠りが浅くて、何度も目が覚めてしまう。
 午前5時くらいから、寝たり起きたり。
『いつでも笑みを』で、石塚義之くんが素肌に蛸を巻きつけられるという芸人ならでは
の過酷なギャグをやらされているところは、しっかり見る。

 午前10時。ホテルをチェック・アウト。
 すでに家族3人だけである。
 私の旅行はいつも人の出入りが激しいので、毎日自分でもこうやて書いておかないと、
きょう1日誰といたのかわからなくなる。
 すでに、土居ちゃん(土居孝幸)が東京に帰って、数日たったような気がするが、土
居ちゃんが帰ったのは、昨日である。

 きょうの札幌は暖かい。
 けっきょく、雪はまったく降らず終い。
 本来この時期なら、雪も降らなくていいからと、来たわけだから、予定通りなのだ。
先週の豪雪のほうが、異常だっただけ。

 午前10時10分。ちょいと綱渡りに挑戦! タクシーで二条市場に行き、ここで食
事をして、午前11時の電車に乗ろうという無謀。あと50分しかない。私の勘では、
ぎりぎり大丈夫なはず。

 二条市場の定食屋「ながもり」に入る。
 本マグロ定食、鮭ハラス定食、サバ定食に、かに汁、岩のりくらげ、イカ、ウニを和
えた、「俺の小樽」というわけのわからない付き出し風のものを注文。
 さすがに市場のなかの定食屋さん。  本マグロも看板に偽りが無いし、鮭ハラスは、脂がお猪口いっぱいに落ちたかと思え るような濃い脂の味。  昨日みたいに、午前中にラーメン屋なんか探さずに、最初からこっちにしておけばよ かった。  意外と旅行中というのは、朝食に困る。  ホテルのバイキングは画一的で、美味しいところといえば、博多のハイアットリージ ェンシーくらいなものだ。  どこでも出るウインナーに、ベーコンに、ハムに、スクランブル・エッグに、乾いた トースト、煮詰まったコーヒー、オレンジジュースというパターンはちょっと飽きた。 私が旅行のし過ぎなのかもしれないが…。  だからやっぱり旅先の朝食は、市場に限るな。  きょうも、二条市場に行くとき、タクシーの運転手さんに、最近は中央市場のほうが 活気があるし、食べるところも多いと教えてもらったので、次回札幌に行くときは、中 央市場にしてみよう。  さて、ものすごい勢いで、食べてでかけようとすると、ぎりぎりまでうちの娘が粘っ て、サバの身をほじっている。これは相当美味しい証拠だ。まずかったら、この娘は ひとくちで、食べるのをやめてしまうからね。  再びタクシーを飛ばして、札幌駅へ。  こういうときは、慣れたもので、札幌駅の北側から乗ったほうが、楽なことは熟知し ている。おかげで、ぎりぎりではなく、発車15分ほど前に着くことができた。  午前11時。スーパー北斗10号。いよいよ、さらば札幌である。この列車を乗り継 いで行けば、きょうじゅうに東京まで、帰ることができる。ただし、12時間かかるが…。  昔はいつもこの列車に乗って、一気に東京まで戻ったものだ。  ゲームの締め切りがタイトで、『ジャンプ放送局』も抱えていたから、こういう無茶 をしても、身体に応えるということがなかった。でも結果的には、身体はぼろぼろにな っていた。ガマンしていただけなのだろう。  車中、さっそくお仕事。 『桃太郎大全集(仮)』の敵キャラのアイデア出し。  今回は、綿密に、綿密に、緻密に、さらに緻密に、作っている。  こういう風に、じっくり敵キャラを練りながら作れるのは、初めてなので、うれしく て仕方がない。  今までは、シナリオと敵キャラを、ゼロの段階から、早くて1ヶ月、遅くとも2ヶ月 間で作らされていたからね。どうしてそういうスケジュールを押し付けることができる のだろうかと、当時相当腹を立てていたものである。現在のハドソン桃太郎事業部の人 たちではない。  根を詰めて働いていたら、また呼吸困難に陥ってしまった。 「真剣に仕事し続けることができるのは、2時間が限界かな?」と土居ちゃん(土居孝 幸)が言っていたけど、そのようだなあ。
 スーパー北斗10号は、快調に快晴の北海道をひた走る。  この列車は、振り子列車なので、トイレに行くときに、激しく揺れる。よく気持ち悪 くなる人が多いくらいだ。  その代わり、初めて札幌―函館間を、正味で4時間を切り、3時間9分という画期的 な時間短縮に成功した。  これは長年この区間を通勤電車として利用していた私には、うれしい限り。人間は電 車で3時間の距離なら、飛行機でなく、電車を利用するそうだ。ようやくその3時間ラ インに入って来た。  でもまだまだ北海道新幹線を着工する気配すらない。  沿線の「北海道新幹線の早期着工を」の看板が立っているが、すでに13年前にも、 あの看板はあった。  北海道の有力な政治家が、失脚したり、自殺してしまったので、北海道には、新幹線 が来ないそうである。今も昔も政治新幹線なんだなあ。  せっかく青函トンネルは最初から、新幹線が通るサイズで彫ってあるのに、もったい ないことだ。  日本の経済の発展のためには、田中角栄さんがあのままずっと首相をやっていたほう がよかったのではないだろうか? ロッキードの汚職事件はいけないことだったかもし れないが、最近の小粒な茶番劇を見ていると、目に見える政治をしてくれた田中角栄さ んに、もう数年続けてもらいたかった。その気持ちがどこかにあるから、現在総理大臣 になってほしい政治家ナンバーワンが、田中真紀子さんなんでしょ。  午後1時14分。函館に4分遅れで到着。  函館も暖か〜い! コートがいらないくらいだ。  さて、困ったことに、本当は明日東京に帰りたいのだが、昨日も、一昨日も「みどり の窓口」で調べてもらったのだが、どうしても函館―盛岡間のはつかり号に、座席が無 い。  だいたい、はつかり号は1日4本しか走っていないのだから、怠慢である。乗らない から、本数減らす。本数減るから乗らなくなる。だからたまの連休がらみは超満員とい う悪循環である。せめて連休のときぐらい、臨時列車を走らせるくらいのことを考えて ほしいものだ。JR東日本は。  木を見て森を見るみたいな発言かのしれないが、JR各社のなかでは、JR東日本が いちばん企業努力に欠けているような気がする。  仕方がないので、明日も函館に泊まる決意をして、月曜日の分の列車を予約しに行く。  念のため、明日のはつかり号も聞くことにするが、すでに空席と満席を表示している ボードには、赤々と「満席」の文字が張られている。 「すみません、一応調べてみてください!」 「はい!」  カチャカチャ! カチャカチャ! 「3席だけならありますよ。席はバラバラですが…。キャンセルが出たみたいです…」 「えっ! 本当! やったあ! 夢みたいだ! わーい、わーい、やったぞ〜! 明 日帰れるぞ〜!」  もう絶対無理だと思っていた高校受験に奇跡的に合格したぐらいうれしい。オーバ ーではないんだよう。昔からこの路線は、こういう風に満席が多くて、何度も滞在を 増やしたことがあるんだから。    そのために、函館五稜郭にマンションを買ったぐらいなんだからさあ!  しかもマンションを買う前は、自由席に早くから並ばないといけないから、大変だ ったんだから。  一度、横入りした乗客と、前から並んでいた乗客とで、大喧嘩になったくらいだか らね。駅員さんが私たちの味方をしてくれて、けっこう感動物だったのだ。    いやあ、ウッキウッキ!  身体がけっこう限界に達していたんで、うれしい限り。  体育の時間の校庭マラソンを10周で走れといわれていて、7周目に、あと1周で いいよと言われたようなものだ。  逆にパワーが出てきたぞ。  ホテルまで歩くぞ! 現金な中年だ。  朝市を通って、ホテルへ。  いきなり、「いかすみソフト」の文字が目に入ったので、さっそく食べる。美味し くないだろうと思いつつも、『桃太郎電鉄』の作者としては、変り種の食べ物はとり あえず食してみないといけない。  万が一美味しかったら、物件に採用しないといけない。
 ん? なんだかちっともイカ墨の味がしなくて、ただのチョコソフトな感じ。唯一 値段が100円というのが、賞賛。  続いて、「いかまるくん」の看板。  たこ焼きの蛸の変わりに、イカを入れたという。  函館は、何が何でもイカの町なのだ。  イカそーめんという美味しい食べ物もあるし、イカのキーホルダーも売ってるし、 イカとっくりという、とても臭いお土産品もあるくらいだ。
 もちろん食べる。  はふはふ。う〜む。食感は、まったくタコとおなじ。  タコの場合は、たまに吸盤のところが、舌にあたるという当たりくじを引いたとき のような喜びがある分だけ、たこ焼きに軍配が上がってしまうなあ。惜しい! もう 一工夫ほしかった。  午後3時。函館国際ホテルに着く。   行きに土居ちゃんと泊まったハーバービューホテルは満室だったので、なんとかこ のホテルが取れた。老舗ホテルなので、かつて何回か泊まったことがあるけど、老朽 化していて、次第に泊まらなくなっていた。今回はどのホテルも満室だから、ガマン しようと思ったら、なんと別館ができて、そちらのほうに泊まれるそうだ。それはラ ッキー。  着いてみて、驚いた。  従来の函館国際ホテルの隣りに、2倍以上の大きさの別館が建っているではないか!  さすが函館! 土地が余っているから、改築などせずに、新たに建設したあげくに、 旧館と廊下で結んでしまった。なるほどねえ! すごいや!  別館は、部屋も新しくて、きれい。もちろん広い。  ホテルはこうでなくちゃ。  明日の電車も取れたことだし、気分爽快だ。  午後3時30分。海鮮市場へ。今週の火曜日に、土居ちゃんと来た場所だ。  あのときにも挨拶した、市場の加賀さんと海産物を選ぶ。  私はいわゆる、業界的にいう、お中元、お歳暮の類いの風習が嫌いなので、こうい う風に、たまたま函館に来たとき、思いついたなつかしい人や、お世話になっている 人に、海産物を送るようにしている。私たちの食い道楽っぷりを押し付けているとい う噂もあるが。  とにかくお中元、お歳暮という儀礼的で、心のこもっていない風習が嫌なのだ。  ダンボール箱4箱ぐらい買ったところで、広い海鮮市場のなかを歩き疲れたので、 私だけホテルに戻り、しばし休む。
函館の街もライトアップ
 午後6時。大門の「鮨金総本店」へ。今週の月曜日行った函館のお寿司屋さんとお なじ系列のお店。  そもそも、このお寿司屋さんとの出会いが、函館の町との出会いになった。このお 店の福田さんとなかよくなったことから、いつも函館に寄ったときには、この「鮨金」 に寄るようになった。しばらくして、東京新橋に出店するようになってからは、新橋 のほうにもよく行くようになった。函館のお店の人たちが循環で回って来るのだ。ち なみにこの福田さんは、12月4日から、新橋にいるので、ぜひ行ってあげてください。  銀座博品館の1本裏の道に「鮨金総本店」があります。函館から空輸された美味し いお寿司を食べることができます。お勧めは、サーモンに、イカウニそーめんに、焼 き帆立の海苔巻。
 思えば、この新橋のほうのお店に、よく結婚する前の嫁とよく行ったものだから、 ひょっとすると、私たちの結婚のきっかけは、このお店だったのかもしれない。今日 の我が家の食いっぷりから想像すると、あながち嘘に思えない気がしてきた。 「ふに〜! ふに〜! 幸せ〜!」  うちの娘の寿司っ払いが始まった。  もちろん娘は未成年なので、お酒は飲めない。  その代わり美味しいお寿司を食べたときに、酔っ払う。ふにふに笑い出して、親に 背後霊のようにへばりつき始める。    食後、ハーバービューホテルの2Fで、コーヒー。  このお店で、わけもなく娘が笑い転げて困る。  寿司っ払いが、絶好調である。  あとは本屋さんに寄って、本を買って帰る。  函館には、かつてセカンドハウスがあったので、どうしても行動が日常的だ。  さあて、思いのほか明日東京に戻れることになったので、1日得した気分。一生懸 命電車のなかで、仕事するぞ〜! …って、変な掛け声だなあ…。  ではまた明日。
 

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