11月21日(火)

 ホテルはやっぱり眠りが浅い。
 ちょっと寝不足のまま、『めざましテレビ』を見ながらうとうと。

 午前9時。昨夜、あれほど函館の人たちはいい人だらけと書いたにもかかわらず、
いきなりホテル前のタクシーに乗車拒否される。
「海鮮市場なら、そこ左に曲がってすぐだよ!」
「いや、そこじゃなくて、明治館の先の、海鮮市場!」
「歩いて行けるよ!」
 土居ちゃん(土居孝幸)が、「足が悪いから…」と言ってくれたが、
「土居ちゃん、やめよう! こんなやつのに乗って行きたくない!」
 道南タクシーのSという男だ。

 けっきょく、雨混じり、風吹きすさぶなか、延々歩いて行く。
「さくまサン、遠いじゃない!」
「だから、タクシーで行こうとしたんだよ、オレは!」
 寒いから、よけいつらい。
 函館には、もう何10回となく来てるから、海鮮市場までの距離は誰よりも知っ
ている。十分遠い。

 海鮮市場の「いかいか亭」で、三色丼。
 函館の朝は、いつもこのウニ、イクラ、イカの三色丼、2000円か、イクラ、
海老、サーモン、イカのいかいか亭丼、1700円のどちらかを食べることにして
いる。
 2000円自体は高いが、おなじ分量、おなじ味のものを東京で食べれば、 5000円はする。  全部がそうだとは言い切れないが、駅前の市場は、偽物のイクラとかを売りつ けられる確率が、滅法高い! くれぐれも函館にお寄りのせつは、駅前市場では なく、その先の「海鮮市場」に行ってほしい。お金をもらっていないからこそ、 真実だよ。  食後、海鮮市場の知り合いのお兄ちゃん、加賀くんにご挨拶。今週末、家族で もう一度来ますと伝える。いつもここから海産物を送ってもらっている。  食後、土居ちゃんが、観光地として整備されてからの金森倉庫群を見たことが ないというので、強風のなか、ぶるぶる震えながら行くが、どのお店も開店は、 午前10時から。もうちょっとで開店するが、実は午後10時30分までに、ホ テルに戻らないといけない。
 午後10時30分。というわけで、ハーバービューホテルに戻る。チェックア ウトのためではない。なんと『有限会社 桃太郎商店』の録音のためだ! 今回 どうしても、アリtoキリギリス、堀越のりチャンとのスケジュールが合わず、 こうして電話での出演となった。この模様は、12月2日に放送されるが、やっ ぱりホテルの明るい午前中の部屋からの出演は、テンションがもうひとつ上がら なかったなあ。スタジオなら、午前中でも、暗いから、深夜放送の番組でも、夜 の気分になれるんだけどね。
 午前11時30分。どうしても土居ちゃんに昨日、行きそびれた、レイモンハ ウスの料理を食べさせたくて、函館山の麓の「レイモンハウス」へ。昨日、 「胃袋の伝道師」と異名を持つ人が、このお店を始めたと書いたが、「胃袋の宣 教師」であった。「伝道師」は、ダビスタ伝道師の成沢大輔くんだ。  さて、かつてよく通ったこのお店の2階にさっさと上がろうとしたら、なんと 2階はずっと閉鎖しているというではないか。ありゃ! 時代は変わっていた。 たしかに、8年ぶりくらいだもんな。  仕方なく1階のファーストフードっぽいところで、ジャーマンポテトとコーヒ ーを注文して食べる。  この1階のほうのお店は、午前9時から午後6時までの営業だそうだ。昨日午 後7時30分に来て、シャッターが閉まっていたのはあたりまえであった。  何だか淋しいなあ。このお店、本当に美味しかったのになあ。きょう食べたジ ャーマンポテトも昔のままで美味しいのになあ。どうせなら、白いテーブルクロ スの洒落た2階で食べたかったなあ。
「ほくほくして、美味しいですねえ。皮付きのポテトなんだあ。だから美味しい んだ!」と、土居ちゃん。  さて、変わりやすい天気のなか、函館駅に戻り、いよいよ札幌に向う。  午後12時50分。スーパー北斗9号。  いきなり、五稜郭駅で、青森から来ているはつかり号を待つために、停車。 「早くも大雪の気配かな?」と、きょうも土居ちゃんはうれしそうだ。そんなに 雪が見たいのか? 雪国の人が聞いたら、怒りそうだ。  発車5分もすると、早くも沿線に牧場が見えてきて、馬が放牧されている。  やっぱり函館から北が、北海道に来たなという気分にさせられる。  どことなく函館は、まだ青森のほうに近いイメージがある。  車中、さっそく土居ちゃんと『桃太郎大全集(仮)』の打ち合わせ。  今までの何倍も敵キャラを登場させたいという野望があるために、本当に真剣 に土居ちゃんと、綿密に、粘り強く打ち合わせる。  これほどまでに、ふたりで真剣に討議したのは初めてかもしれない。その証拠 に、ほとんどふたりとも、酸欠状態に陥る。 「ふへっへっへ! 苦しくなってきたな! 少し休もう!」  しかし、天気のほうはいったいどうしたことだ。  札幌は大雪で、50センチの積雪とか、先週から言われていて、きょうも大雪、 いや暴風雪という予報に、土居ちゃんと私は映画『パーフェクト・ストーム』の 暴風雨圏内に突入する気分で、この列車に乗ったのに、外を見れば、かんかん照 り。青い空と、白い雲が広がる。真夏の観光案内の表紙のようだ。  大沼公園も、いい天気。  長万部(おしゃまんべ)もいい天気。  日差しがまぶしいくらいだぞ!  洞爺湖あたりでは、とうとうたまに降っていた雨すら上がってしまった。次第に 土居ちゃんがうるさくなってきた。 「雪がない! 雪がない!」 「どうしたんだ、雪がないぞ!」 「雪がない! あなたは来ない! アダモ! アダモちゃん!」  土居ちゃん、何言ってんだ!? 「ねえ! 予報では大雪って言ってたのにねえ!」  そんなに土居ちゃんは、雪が見たかったのか?  午後3時。登別も天気のまま通り過ぎてしまった。ますます天気がいいぞ! 天 気がいいのは悪いことではないのだが…。 「雪はまだか!」  土居ちゃん! いつからお殿様になった!  午後3時30分。苫小牧、通過。 「土居ちゃん、もう苫小牧まで来て、雪が無いんだから、雪はもう無いよ!」  といってるうちに、ようやく沿線に残雪が目立つようになってきた。土居ちゃん は、喜ばない。
 午後4時15分。列車は、予定より10分以上遅れて、札幌駅に到着! わざわ ざハドソン桃太郎事業部の梶野竜太郎くんが、桃太郎のハッピを着て、プラットホ ームまで迎えに来てくれた。こういうバカなことを大真面目でやるところが、好き だ。  思ったより、札幌は寒くなかった。  改札口を出ると、ゲーム・ディレクターの国政修くんもお出迎え。  そのままハドソンが用意してくれた車で、アートホテルズ札幌へ。  瀟洒できれいなホテルだ。  このホテルは、ハドソン御用達でもあるので、格安で泊めさせてもらった。  渡されたカードキーを持って、部屋へ。  カチャッ! すーーーっ! 「おお! 小さいけど、けっこうきれいな………ギャアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」 「な、な、な、な、な、な、なんだ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、これ、これ、 これ、これ、これは!!!!!」  クラブで、サンプリングDJになったわけではない!  私が4泊もするものだから、ホテル側が気を遣ってくれて、ご丁寧に、24階の 部屋を用意してくれたのだ!  し、し、しかも! 部屋は床からすぐ、窓!  せめて、腰まで壁があって、窓ならまだいいのだが、床からそのまま延長線上に ガラスの窓があるのは、おしゃれかもしれないけど、日本一の高所恐怖症の私に、 むごうごじゃりますうううううううううううううううううううううううううううう うううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!  せっかく飛行機に乗らず、ここまでずっと陸路でやってきたのに、ゴールで、 まさか飛行機の視点から下界を覗くと思わなかったよ〜!  とにかく、足ががくがく、誰も話し相手がいないのに、どもってしまう始末。  滞在時間およそ15秒。カートとバッグを投げ捨て、あわててエレベーターに乗 り、フロントへ。まるでお化けを見た人みたい。 「あ、あ、あ、あの、ちょ、ちょ、ちょっと、部屋があの、その、高くて、こ、こ、 こわいんですけど、へ、へ、部屋を替えていただけないでしょ、しょ、しょ、しょ うか???」 「はい、少々お待ちください!」  ああ! 待ち遠しい。このまま高い部屋しか空いていなかったら、ほかのホテル に移るぞ! 「それでは、16階ではいかがでしょうか?」 「じゅ、じゅ、じゅ、じゅうろろろろくかかかーーーい!?」 「は、少々お待ちください!」  やばいぞ、やばいぞ!  どこのホテルに移ろうか? 連休だから、どこも満員だぞ。 「あの〜、4階の部屋なら、××××××××で、ご用意できるのですが…」  途中の言葉はわからねど、とにかく4階ならいい! それにしてもまだ膝ががく がく言ってる。  二度と、24階に行きたくないので、梶野竜太郎くんに荷物を取ってきてもらっ て、4階の部屋に移る。  1Fの喫茶店に入って、数分後、ようやく緊張から開放される。 「笑っちゃいけないけど、さくまサン、ものすごく顔が強ばってましたよ!」 「いやあ! 一瞬、24階でもガマンしようかとも思ったんだけど、外が見えた瞬 間、足ががくがくしちゃったから、部屋から出ることしか思いつかなかった」 「すみません! 気がきかなくて!」 「いや、ホテル側は、わざわざ気をきかしてくれて、見晴らしのいい部屋にしてく れたんだよ!」 「25階まであるホテルの24階ですんもんねえ!」  なんとか気を取り直して、国政修くんと『桃太郎まつり』の打ち合わせ。いよい よ『桃太郎まつり』が大詰めに差し掛かっている。  きょうもこれから、本当ならいっしょに食事するはずだったのに、国政修くんは 会社に戻って、『桃太郎まつり』の仕事をするそうだ。何だかいつもフィニッシュ を任せっきりで申し訳ない。  午後6時。ハドソン副社長の中本伸一さんと、三上寛幸役員が到着して、そのま ま、すすきのへ。  すすきのといっても、みなさんが喜ぶような、値段の高いお風呂ではない。中本 さん、お勧めの値段の高い料理屋さんにご招待してくれたのだ。
 なんと、京都の「M」に続いて、良いお店としてのイニシャル表記。「A」とい う小さなお店。  中本伸一さん、私、土居ちゃん、三上寛幸さん、梶野竜太郎くん、この5人で ほとんどいっぱいになってしまうようなお店。  ご主人がひとりだけで、やっている。  ところが、このお店が恐ろしいお店。  御主人が、漁師の息子さんなので、ふだん手に入らないような魚のオンパレード! 魚の仕入れをやっている人が見たなら、何でその魚がお店に出るの?といったよう な代物ばかりなのだ。  タラバガニの内子の沖漬けとか、脂乗りまくりのマスとか、鱈の白子とか、とに かく私が生まれて食べるような魚ばかり!  きょうという日ぐらい、私が日本酒が飲めないことを悔しいと思ったことはない。  日本酒の好きな土居ちゃんは、「美味しい! 美味しい!」を連発してるうちに、 早くも目がとろ〜〜〜ん! ずっと「雪がない!」とぶうぶう言っていたのが嘘み たいに、上機嫌だ。
 梶野竜太郎くんが、うちの嫁と娘が、このお店の料理を食べたら、何と言うか、 聞きたい!と言っていたが、本当に何と言うか聞いてみたい。明後日から親子は 来るんだけど、私もいっしょにまたこのお店に来るというのもねえ。困った、困 った。そう何度も、札幌に来れないしなあ。予約ですぐ埋まってしまうお店だし。  中本さんと、梶野竜太郎くんに、雪祭りのときに、また来ませんか?と言われ て困る。  かつて、仕事のために毎月、札幌まで電車で通っていた頃は、使命感に燃えて いたので、つらいとは思わなかったのだが、今回みたいに仕事半分で来ると、陸 路はやっぱり遠いなあ!  午後8時。三上寛幸さん、土居ちゃん、梶野竜太郎くんの4人で、すすきのの 喫茶店を探しに行く。  かつて、「リチャード3世」というお店があって、15年前毎日ここでファミ コン版『桃太郎伝説』を朝まで論議してアイデアを練った思い出のお店なのである。  しかし、お店があったはずの場所に行くと、サンクスになっていた。う〜む。や っぱり15年もたつと、なくなってしまうものかあ! 「あ、さくまサン、ありましたよ! ほら!」と、三上寛幸さん。  三上寛幸さんが指差す先を見ると、看板に「リチャード3世」の文字が! おお!  この看板だ! しかし、看板だけで、やっぱりお店はない…。看板の下のお店は、 やっぱりサンクスだった。  やっぱり新しい『桃太郎伝説』を作れってことだろな。  午後10時。向かいの喫茶店「109」で、お茶を飲んでホテルに戻る。きょう こそ日記は短く書いて、早く寝ようと思ったのに、  もう午前1時を越えている。  もう少し書きたいことがあるけど、もう休ませて!
 

-(c)2000/SAKUMA-