10月16日(月)

 悶々…。悶々…。
 悶々…。悶々…。悶々…。
 悶々…。悶々…。悶々…。悶々…。
『黒のもんもん組』って、漫画あったけど、覚えてる人は30代から上かな?

 ああ〜〜〜、どうしてRPGって、プレイするときは楽しいのに、作るのは楽しく
ないのかなあ?
 ストーリーを作るまでは、べらぼーに楽しいのよ。
 でも出来たストーリーに、各キャラの数値を入れたり、宿屋のメッセージやら、マ
ップを作ったり、武器、防具の名前を考えたり、体力0になったらどうしよう、毒を
喰らった場合の処理は? 洞窟のなかでつかえる術は…といったこまかいことを考え
始めると、急速にテンションが下がる。
 
 だって、RPGは、プレイヤーにとって楽しいことが、作り手には全部楽しくない
んだもん。初めて会った敵キャラのHPがどのくらいなのか、攻撃力は? 守備力は?
どんな特殊攻撃を仕掛けてくるのか? これを想像するのが楽しいし、ドキドキする。
 でも作り手は、その数値を全部知ってるのだ。その数値を作るから。

 洞窟はどっちに行ったら、近道か? 洞窟の謎解きは?
 これもRPGの楽しさのひとつだけど、全部最初から知ってる。
 最初から『ドラゴンクエストVII』の石版のかけらのありかを知ってたら、つまら
ないよ〜! 堀井くんは、作っていて楽しいのかな。どう楽しいか、今度会ったら聞
いてみようっと。
 やっぱりどう考えても、堀井雄二は天才ですなあ。ずっとRPGを作り続けられる
んだもの。

 午前10時。家族3人で、京都駅。
 近鉄京都駅脇の喫茶店で、近鉄特急を待つ。
 雪苺娘(ゆきいちご)+コーヒーのセットという不思議なメニューがあったので、
ひとつ注文して、さらに雪苺娘を4等分してほしいと無理をいう。嫌がらずにやって
くれた喫茶店のお姉ちゃんは、えらい!
 昔『一杯のかけそば』という話があったが、我が家は『4等分の雪苺娘』である。
ちっと悲壮感が無い。
 雪苺娘は、美味しいんだけど、量が多すぎるんでねえ。雪苺娘って知ってるよね。
駅の売店でよく売ってる、無茶苦茶あま〜〜〜い、苺のショートを大福でくるんだ極
悪なデザート。

 午前10時45分。近鉄特急で、奈良方面へ向う。
 外の天気はよいのだが、車内の冷房が強くて、冷え冷え〜!
 血行の悪い私の左腕が、冷たくなる。
 嫁が車掌さんに、冷房を下げてほしいと頼む。
 すると、嫁の隣りに座っていた女性の方から「ありがとうございます!」と言われ
てしまった。その女性も寒くて仕方がなかったらしい。
 
 車中、うちの娘と『桃太郎大全集(仮)』のアイデア出しをする。
 おいおい! うちの娘のほうが、私よりどんどんおもしろいアイデアを出すではな
いか! うれしいやら、やばいやらだ!
 親バカの欲目かとも思ったのだが、冷静に考えても、娘のアイデアのほうが、理に
叶っているし、おもしろい。
 まあ、ふだん、あれだけうまい物を食わせているんだ、少しは返してもらわないと!
 そういうと、いつも娘はこういう。
「パパ〜! あたしが大人になったら、今まで食べさせてもらった美味しい物を、
0、01倍にして返してあげるからね〜!」
 おいおい、0、01倍じゃ、減ってるじゃないかあ!

 そんなわけで、すいすい、『桃太郎大全集(仮)』の仕事が進んでしまった。朝か
ら3時間ほとんどひとつも浮かばなかったのは、一体何だったんだろうか。

 車窓からの景色は、秋真っ盛り。
 セイタカアワダチソウの山吹色に、稲穂の黄金色に、「よっ! これぞニッポンの
景色!」と掛け声をかけたくなるくらい、美しい景色が続く。若い頃は夏が大好きだ
ったけど、今は秋がいちばん好きだなあ。
 おお! 先日大江町で、あたり一面のコスモス畑を見たせいか、ちょっとだけ群生
してるコスモスにも、目が止まるなあ。人間はこうやって学習して行くのだろうな。
 午前11時36分。橿原神宮前駅に着く。ああ、もったない、もったいない。もう 少し娘を働かせばよかった。へっへっへ。子どもに頼るようじゃ、おしまいだーなー!  午後12時。明日香村の「めんどや」へ行く。  何たって、きょうの小旅行は、このお店が目当て! 「飛鳥鍋」という、名物料理がある。そのほかにもたくさん美味しい物があるお店な のだ。おそらく3年ぶりくらいの来訪になるはず。  さて、その「飛鳥鍋」は美味しいのだけれど、量の多さが尋常じゃないので、2人 前頼んで、あとひとつは「よもぎにゅうめんセット」にした。
「飛鳥鍋」は、ひとことで言ってしまえば、「牛乳鍋」。  シイタケ、エノキ、白菜、ゴボウ、ブロッコリー、カボチャ、ネギといった無農薬 野菜を鍋にぶち込んで、ニンジンで味付けした鶏肉を入れる。鍋のなかには、七味を 隠し味で入れた牛乳がたっぷり。  これをぐつぐつ煮る!
 煮え上がる前に、柿の葉すしを食べるが、この柿の葉すしだけのために、このお店 に来てもいいくらい、美味しい。安っぽい柿の葉すしはサバ独特の臭みがあるけど、 ここのにはそれがない。肉厚のサバが豪快な味だ。もともと私はサバが苦手なのだが、 京都「M」と、ここの柿の葉すしのサバだけは、能動的になる。
 先付けの「ごま豆腐」も美味しい。  食べると、白胡麻が口の中で「ぷつぷつ!」と音を立てる。こういうごま豆腐はほ かで食べたことがない。  まだまだこの「めんどや」サンには美味しいものがある。  柿だ! 私が果物のなかで、いちばん大好きなのが、柿だ。  しかも今のところ、ここの柿がいちばん好きだ。  ところが、きょうは店先に柿が置いてなくて、ミカンが並んでいた。  え〜、柿が無いの〜!? 「実はここの柿の味が忘れられなくてやってきたんですよ!」と店のご主人に伝える。 「うちのは美味しいでっせ〜! 大きいでしょ、うちの柿は。でも早かった。柿はも う少しあとですなあ!」  う〜、くやしい〜! 「でも、値段ちょっと高いけど、少しだけなら、持って行っていいでっせ! ちょっ とだけね!」  え〜〜〜、それはうれしすぎる〜!  やっぱり「おいしい!」と言ってみるもんだね〜。  お店の人で「おいしい!」といわれて嫌な顔をする人はまずいない。それどころか 店の人となかよくなることができるし、なかよくなれば、こういう風に融通を効かせ てくれるようになる。  この方法も、すぎやまこういち先生ご夫妻から学んだ。  それまでは、どんなに美味しくても、黙って帰って行ったものだ。  いくら思っていても、口に出して言わなければ、相手には伝わらない。  食べ物から学ぶことは、あまりにも多い。
「飛鳥鍋」が煮えたぞ!  牛乳だと、味がくどいと思う人もいるかもしれないけれど、意外とさっぱり味。な にしろ、野菜が美味しい! 豆腐の質もいいし、この鍋に豆腐は合う。  野菜に鶏肉だから、本来ヘルシーなはずだが、量が多いので、思い切り腹ふくるる になる。 「幸せ…。幸せ…。幸せ…!」  またうちの娘の幸せつぶやきが始まった。  でも本当に美味しいのよ〜! 「土居ちゃん(土居孝幸)〜〜〜! これが京都合宿中に、何度も何度もいっしょに 行かない?って、誘ってた飛鳥鍋だよ〜! たっぷりくやしがってね〜! 行きたか ったらいつでも言ってね〜! 何度も行ってもいいよ〜! 次回もっと大量に柿を買 って帰りたいからさ〜!」  ふうっ。満腹! 満腹!  2人前でも、まだ量が多いなあ。  でも、でも、でも! まだこのお店の魅力はこれだけではない。  このお店のデザートに出る、わらび餅がまた絶品なのだ。  ぷるるん、ぷるるん、ぼってりと大きくて粗野で、重量感たっぷりな美味しさなの だ。  私は、わらび餅もそんなに好きではないほうなのだが、このお店のわらび餅だけは 別格。喉が鳴る。      このわらび餅のほかにも、デザートとして、オレンジ、いちじく、バナナなどがつ いている。もうお腹いっぱいで、いちじくを食べなかったのだが、嫁はこのお店のい ちじくもまた絶品という。  もう絶品だらけのお店なのだよ、このお店は。  唯一の欠点は、このお店、午後3時を過ぎお客さんが来ないと、さっさと閉店して しまう。まったく商売っ気というものがない。  きょうも最後に、柿を買ったら、ミカンを3個お土産に持って行け!といわれてし まった。  天気がいいので、お店の人に、石舞台までの近道を聞いて、歩いて行く。  石舞台とは、あの教科書にも写真入りで登場する、あの石舞台である。蘇我馬子の 墓であるとか、ないとか、狐が天井の岩で踊ったから 「石舞台」と呼ばれるようになったとかいわれる、あれである。  しかし、石舞台までの道は、たしかに近道なのだが、想像を絶するような坂道で、 私は息も絶え絶えになる。  はあはあ…、ひいひい…。  うんしょ、うんしょ!  はあはあ…、ひいひい…。  うんしょ、うんしょ!
 さすがの嫁と娘も、大量の柿とミカンを持っているので、へばっている。  地図で見たら、たいした距離じゃなかったから、歩くことしたのだが、やっぱり調 子に乗らず、タクシーにすればよかった。  最近、散歩不足かなあ。
 午後1時30分。なんとか、石舞台にたどり着くが、もうへとへとの、げれげれ…。 もうダメ! ふひ〜〜〜っ!  ちゃんと石舞台を見に来るのは、高校の修学旅行以来かも。  だとすると、30年ぶりだ。  何年か前に一度来たが、外から見ただけで、桜の美しさのほうがメインだった。
 石舞台のお墓のなかまで見たが、へばっていて、感慨も何も沸かない。無念なり。 いかんね、へばりすぎちゃ。  午後2時。石舞台の近くの観光物産のお店「夢市茶屋」で一休み。  黒豆アイスがけっこう美味しかった。
 お店の人が、親切に、京都行きの近鉄特急の時刻表を調べてくれた。  iモードで調べられることは知っているが、調べられるわけがない。  エッヘン! えばってどうする!  午後2時55分。京都行きの始発特急に乗る。  座席に座った嫁が、いきなり驚いている。  どうしたんだ?  なんと!  きょうこっちに来るときに、嫁の隣りに座った女性と、また隣り合わせたというで はないか! あの嫁が車掌さんに、冷房を下げてほしいと言ったら、お礼をいった女 性である。何たる奇遇。すごい確率だよなあ。  何でも身内のお見舞いに行ってきたそうである。  こういう邂逅もまた楽し。  車中、再びうちの娘に『桃太郎大全集(仮)』のアイデアを出させる。 「ほ〜ら、アイデアっていうのは。ひとつやふたつは出ても、そうカンタンにいくつ もいくつも出るもんじゃないだろ? 2打席連続ホームランより、シーズンを通して の3割のほうが評価が高いのだよ。少しはお父ちゃんを尊敬した?」  …と、いうはずだった。  困った。またしてもバカスカ、ほいほい、アイデアを出されてしまったのだ! ど うしよう、私の立場は!  このまま桃太郎チームのスタッフに入れるしかないかな。  おいおい! はっきりいって、気が動転してるぞ、私は。  アイデアもそうなんだけど、いちばん桃太郎らしいアイデアをいうのだよ、私が忘 れていたような。だからあわててしまったのね。  う〜む。どんどん真剣に仕事しないといけないところに追い込まれて行く私であっ た。あいつ、私の後を継いで、ゲームデザイナーになりたいとか、雑誌のインタビュ ーに答えていたことあるけど、本気なのかもしれんなあ。  最近、私と放送作家の福本岳史くんとの打ち合わせを、耳をそばだてて聞いている ことが多いからなあ。末恐ろしい。  午後4時。京都着。  石舞台にてこずってしまったので、京都に戻るのが相当遅れてしまった。  速攻、京都のマンションに戻る。  午後4時30分。実はきょう、東京に帰ることにしたので、大慌てで、帰り仕度。 といっても、がんばるのは、嫁なんだけど。  本来ならこのまま残って、ゲームのアイデア出しをするのだが、何だか今回はひと りで残ってもいいアイデアが出ないような気がしたので、帰る。娘の卓越したアイデ アに本当に狼狽しているようだ。情けない。  どんな強打者でも、20打席連続ノーヒットというときもあるさ。  午後6時07分。のぞみ64号で、東京に向う。  さすがに奈良の疲れと、先週からの京都合宿の疲労がドッと出て、熟睡。  それでも出だしの30分間で、かなりのアイデアが出る。  娘は早々とグースカ寝ている。  娘抜きでもいいアイデアが出て、ホッとする。  ちょっと心配しすぎ!  ボテボテのヒットでも、ヒットは、ヒットと自分を慰める。  午後8時21分。東京駅着。  午後9時。帰宅。  京都駅地下で買って来たお弁当を家族3人で食べる。 「はつだ」の特選和牛弁当は、きょうは月曜日なので、定休日。買おうにも売ってい なかった。  食後に、早くも「めんどや」サンで買って来た柿を食べる。  うほほほほ〜! 天に昇ってしまっていいですか〜!  んまいっ!   京都の錦市場で、「んま!」っていうお米の銘柄を売っていたなあ。 「んま!」だ!  それにしても何だかいつもと違った雰囲気だったなあ、今回の京都合宿は。  いろんな意味で、楽しかったし、大人ばかりの会議は充実度が違う。今後新しい動 きが出てくる予感を誰もが感じていたようだ。  明日からはそれを形にして行かないとなあ。  きょうはさすがにゆっくり休みますぞいっ!
 

-(c)2000/SAKUMA-