9月13日(水)


 どうやら、一昨日の台風14号の傷跡も癒えて、新幹線のほうは平常運転に戻った
ようだ。よかった。よかった。これできょうはこれから大阪の仕事に行くことができ
る。

 午前11時。東京駅で放送作家の福本岳史くんと待ち合わせ。
 そのまま東京駅地下の「資生堂パーラー」で、ビーフカレー。
 まさか2日続けてこのお店に入ると思わなんだ。

 午前11時56分。のぞみ13号で京都に向かう。
 福ちゃんと、新幹線に乗ると、座席が狭い。
 私のほうが年長なので、窓側に座るが、まるで昨日の豪雨のこともあるので、土嚢
で堤防を築かれたような気分である。福ちゃん、でかい!

 車中、福ちゃんとまたまた新しいゲームの企画『桃太郎大全集(仮)』のアイデア
出し。一体今、私はいくつのゲームの企画を立ち上げているんだ?
 このところ鎌倉購入計画のため、仕事がはかどる、はかどる!

 新幹線は名古屋駅を過ぎて、昨夜堤防が決壊した庄内川に近づく。
 うわっ! 小学校の校庭が完全に水没してる。
 す、すごい、惨状だ!
 自衛隊のボートが、何艘も水浸しの町に浮かんでいる。
 きょうのこの時間になっても、まだ水が引いていないだ。 
 
 戦国時代にもよく濃尾平野が洪水で苦しんだことが書いてあるが、今日こうして生
々しいドキュメントで目の当たりにするとは思わなかった。

 午後1時10分。京都駅着。
 天気予報では、100ミリ近い雨が降る予報だったのに、青空が広がるいい天気。
風がときおりちょっと秋の涼しさ。

 午後1時30分。京都のマンションに到着。
 福ちゃんと、とあるゲームをプレイする。
 今後の仕事のための参考。

 意外と福ちゃんがゲームはまって、キリのいいところまで行くことができない。
 気がつけば、午後4時近く。
 あわててふたりで、マンションを飛び出す。
 これから大阪まで行かないといけない。
 御池通りを歩いていると、私の携帯に京都相互タクシーの宮本さんから電話が入る。
「さくまサ〜ン! 横を見てくださーい!」
 えっ? 何? 横? 御池通り?
 あっ。道路の路肩に、宮本さんの車が。
 ちょうど、これからすぎやまこういち先生ご夫妻を車にお乗せするために、待機中
なのだそうだ。
「昨日、豪雨で京都まで来れなかったんですよ〜!」
「すぎやま先生と奥様から聞いていますよ!」
「これから大阪で仕事なんです」
「何なら、宮本が大阪まで迎えに行きますよ〜!」
「あはは。それは楽チンでいいなあ。でもたぶん電車で帰れる時間に戻ってくると思
いますよ!」
 ちょっと立ち話をして、京阪三条駅へ。

 京阪電車で、淀屋橋から、さらに、難波駅へ。

 午後6時。千日前の「なんばグランド花月」の向かいにある
「baseよしもと」へ行く。あのお笑いの「吉本興業」である。
「baseよしもと」というのは、若手の笑いの実験の場として作られた小屋で、きょう
はここで「バッファロー吾郎の爆笑新ネタ逆転満塁ホームラン寄席」というライブが
ある。
 私はなんと、このライブの審査員として呼ばれたのである。
 呼んでくれたのは、関西の放送作家としては、バリバリの売れっ子の小林仁(こば
やしじん)くんだ。
 小林仁くんとは、6〜7年前に知り合って、それ以来。
 会ったら、すっかりもう貫禄がついちゃって、福ちゃんとどっこいどっこいの体格
になっていて、どう見ても『ドラゴンクエストVII』のガボちゃんになっていた。
 福ちゃんも、大阪下積み時代に、小林仁くんと一度仕事をしたことがあるというの
で、きょうは私のマネジャーということでついて来てもらった。
 福ちゃんは、難波駅の地下街や千日前の商店街を歩いていると、飯が食えなかった
頃を思い出していたようだ。誰にでも下積みの町というものがある。私の場合、新橋
かなあ。六本木のテレビ朝日界隈かな?

 バッファロー吾郎のふたりは、当年30歳で『ジャンプ放送局』まっただなかの世
代なので、審査員に呼びたい人のなかに、私の名前を挙げてくれたのだ。
 うれしいなあ。週刊少年ジャンプの読者ページ『ジャンプ放送局』をやっていた頃
から、密かに、このページを読んでいた読者のなかから、お笑いのスターか、政治家
が生まれないかなあと思っていたのだ。
 14年間の連載中に、実現しなかったのだが、きょうこうして、『ジャンプ放送局』
が縁で呼ばれた。またまた夢がひとつ叶ってしまった。
 大病してから今年で5年目。ずっと毎年いろんな夢が実現して行くので、気味が悪
いくらいだ。だったら次は政治家だ。

 午後6時30分。開演。ライブのほうは、7組+ユニット1組の計8組の新ネタを
見て、それぞれひとつひとつに私がコメントをつける。

    ・シンドバット
    ・天津(てんしん)
    ・シェイクダウン
    ・7(ナナ)
    ・ハリガネロック
    ・バッファロー吾郎
    ・スキヤキ

 さすがは吉本のお笑い軍団。
 おもしろかったり、ネタにつまったりなどしながらも、お客さんを笑わそうという
執念は、東京のお笑い軍団など、問題にならない。
 しかも東京なんかの若手のライブでは、よくテンポが悪くなって、完全に立ち往生
といった場面をよく見るが、それが無いのは、さすがお笑い王国・吉本興業だ。
 どのグループも、個性があって、おもしろかった。

 午後10時。なんと、ライブは延々3時間30分にわたって続いた。でも、まった
く3時間以上を感じさせなかった。と同時に、若手のギャグがまったく意味がわから
ないということもなかったので、老いを気にする私としても、ホッとひと安心。
 しかし、真剣に見ていたので、へばってしまった。さすがに体力はもうない。

 さて、最後に私が、きょうのMVPをひとり決めないといけない。
 コンビではなく、きょう登場した全員のなかから、ひとりだけ選ぶというのが、過
酷な吉本ならでは。
 上手さからいったら、文句無しに、バッファロー吾郎のふたりだったんだけど、そ
れじゃ若手発掘の場ではないし、個人ではない。
 というわけでキャラクターのおもしろさと、ちょっと知的なネタがちらちらっと見
え隠れする、シンドバットの森詩津規(もりしずき)くんを選んでみた。ルックス的
にも森くんは清潔感があってよかった。大成してくれるといいな。
 終演後、きょうのライブの打ち上げパーティにも呼んでいただいた。  ここで、バッファロー吾郎の木村明浩(きむらあきひろ)くん、小林仁くんとしゃ べる。
 木村明浩(きむらあきひろ)くんは真面目で、私が好きなタイプの芸人さんだった ので、話していて楽しかった。10月11日に下北沢のライブで、東京に来るような ので、行ってみようと思う。   ところで、午後10時過ぎに、すぎやまこういち先生の奥様から電話をいただいて、 なんと! 京都相互タクシーの宮本さんが迎えに来てくれるように、手配してくださ ったそうだ。何で、私と福ちゃんの現状が見えるんだあ?  きょうは、たぶん午後10時くらいに終わって、そのまま京阪電車で京都に帰る予 定になると思っていたら、思いもかけず打ち上げに呼んでいただいたので、福ちゃん に「せっかくだから出させてもらおう。きょうは福ちゃん、タクシーで帰るぞ! あ あ! でもこんなことなら、宮本さんが冗談で言っていた、大阪まで迎えに来てもら えばよかった」と話していたところだったのだ。    昨日の新幹線といい、きょうといい、すぎやまこういち先生ご夫妻に面倒を見ても らってばかりで、一体私は何をしたらいいんだろう。とにかくすぎやまこういち先生 の奥様のご好意に甘えることにした。  おかげで、お店の閉店時間である、午前0時まで、みんなと話すことができた。  午前0時。本当に難波まで迎えに来てくれた宮本さんのなめらかな運転で、京都へ。  福ちゃんが「あ〜、こんな贅沢したら、やばいっすよ! やばいっすよ! どうし たらいいんですか、僕は」という。 「働け! 体重無くなるまで働け!」 「相当ありますよー!」  午前1時すぎ。小腹が空いたので、3人でラーメンの「天天有(てんてんゆう)」 に行かないかと持ちかける。 「天天有(てんてんゆう)」は、現時点での私の京都ラーメン・ランキング1位の お店。ただ午後8時からの営業なので、なかなか行く機会が少ない。  一乗寺の「天天有(てんてんゆう)」に到着! 「あれ〜? さくまサン、天天有(てんてんゆう)の明かりが消えてますよ!」 「えっ? あっ! 水曜日定休って、書いてある〜! うわ〜、せっかくここまで来 たのに〜!」 「うわ〜、もう食べる気になっていたから、つらいなあ!」  3人でがっくり。  このまま帰るのも悔しいので、北山通りの「ロイヤルホスト」に寄る。     午前2時30分。京都のマンションに戻り、お風呂に入って、さすがにきょうはバ タンキュー! きょうのライブは本当に楽しかった。こういう新しい刺激をつねに受 けていないといけないですな。呼んでくれた、小林ガボくん、バッファロー吾郎の木 村くん、ありがとう! 10月11日、時間が合えば、必ず行きます!
 

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