6月29日(木) 午前10時30分。嫁と高円寺の整体さんに行く。 「あれ〜? 日記見てると、遠出したわけじゃないのに、骨が曲が っちゃってるね。どうしたんだろ?」 「毎日10時間以上、イスに座りっぱなしだったから?」 「ほう! そうかもしれないね」 毎日ずっとロックのキーボード奏者のように、コンピュータを4 台も並べて、あっちを動かしたかと思うと、こっちを弾いてという ように、身体をねじってたからなあ。 おかげで、きょうはいつもの何倍も痛くされちゃったよー。 痛くされるときは、身体が悪い証拠だから、あとが楽になってい いいんだけど、それでも痛い。 石臼で、骨をごりごりやられているようだ。 午後12時30分。西荻窪北口のおそば屋さん「鞍馬(くらま)」 に行く。 さくまにあ統計局長のあんくるクンに言わせると、『さくまあき らの正体』(B・R・サーカス)に美味しいお店として、記述され ながら、日記のほうで、一度も行っていない、唯一のお店というこ とらしい。 ってことで、約4年ぶりに行く。 なぜ行っていなかったかというと、しごく当然。 原宿に引っ越す前に、地元だったお店だからだ。 引っ越してしまうと、なかなか行く機会がなくなった。 隣りの吉祥寺はよく行くのだが、食べる以外の用事も無いとなか なかそこだけをめざして行けないものだ。 きょうは、仕事が一段落しているせいもあって、時間的に余裕も あった。高円寺から3つめの駅でもある。 さて、心配なのは、引っ越してからすっかりうちがグルメになっ てしまったことだ。当時のイチ押しのおそば屋さんが、今もイチ押 しといえるかどうかわからない。 日記を読んでいる人は、わが家族が何10年とグルメ道を続けて いるかのような印象を持つだろうが、まだわずか5年程度である。 杉並区に住んでいた頃は、グルメを発揮しようにも、近くに美味 しいお店は少なすぎた。 巨人のクビになりそうな二軍の投手だって、大リーグの選手に思 えてしまうレベルの舌だったのである、当時は。 あれ? 前に来たときと、メニューの名前が違うなあ。 田舎そば、天もりそばはおなじだけど、箱盛りそばというのが、 標準的なおそばになっている。 以前は、せいろと言っていたような。 まあ、注文してみよう。うむ。箱盛りそばは、以前の麺よりも黒っぽいなあ。もっと透き 通っていたような気がする。 食す。悪くない。 しかし、この食い意地夫婦は、この3〜4年間の美味しいおそば 屋のひとつひとつを走馬灯のように思い出す。 恵比寿・そば懐石「翁」のおそば。青山穂積のおそば。長野軽井 沢「東間(とうま)」のおそば。長野黒姫「ふじおか」のおそば。 吉祥寺「よしむら」のおそば。小淵沢「翁」のおそば。池之端「藪 そば」のおそば。銀座「田中屋」のおそば。京都「みのり」のおそ ば。恵比寿ガーデンプレイスの近くにあるおそば屋さんは何て言っ たかなあ。 ははは。思い出すだけでもこんなにある。本当に何てたくさん行 ってるのだ、私たちは! この恐ろしくもすごいオールスター戦にあって、『鞍馬』もさす がに4番を打つことはできないが、先発出場できるくらいの味では あった。 いつもより麺がしゃきっとしてなかったのが、気になったが、巨 人の上原投手だって、コントロールの悪い日がある。きょうがそう だったような気がする。 依然として、お勧めのお店であったことは、めでたきかな。 食後、西荻窪の町を歩く。なにしろ中学〜大学時代よく遊んだ町 だ。思い出がこびりついて、どす黒くなっている。 町も大きく変わることなく、ちょびちょび変わっていた。 ただ当時は都会に思えた町が、斜陽の匂いがするようになってい たのは、残念である。一度繁栄した町特有の翳りっぷりだ。 何だか、同級生のかわいい女の子が、同窓会で会ったら、生活感 あふれるおばちゃんになっていたみたいに思えたので、歩き回るの をやめて、帰ることにした。 西荻窪北口の昔からある新星堂レコードで、倉木麻衣のCDアル バムを買った。このお店で買ったレコードを聴いたおかげで、音楽 の仕事をできるようになったんだなあと、せめて美化。 午後2時。帰宅。歩き疲れたので、並びの喫茶店「らぴす」サン で休む。 おや? お店のお客さんに見たことがあるような顔が。あれ〜? でも違うような気がするなあ。 ヒゲがない。髪の毛が短くなっている。急速に私が知っている顔 に復元する。 あっ! B・R・サーカス出版の森澤明夫くんではないか! わからなかったよ〜.ヒゲないし、髪短くなってるし、クビにコ ルセット巻いちゃってるし。 先日、森沢くんから、「7月3日のモルツ球団のチケット要りま せんか?」という電話が入っていなかったら、想像がつかなかった かもしれない。 「どうしちゃったの?」 「ストレス性の病気らしくて。みんなにバイク事故?って聞かれる んですけど」 「え〜! もうすぐ健康雑誌を創刊させる編集者が、この格好じゃ あ、みっともないねえ!」 「そうなんですよ〜!」 モルツ球団の試合のチケットをわざわざ持って来てくれたことの 礼をいい、雑談。病気話で盛り上がる。快方には向かってるとのこ と。よかったねえ。 午後3時。帰宅。 寝転びながら、読書。 『おかしな男渥美清』(小林信彦・新潮社)読了。 この「読了」って言葉、私もけっこうつかうけど、何かえらそう で好きになれない。 『おかしな男渥美清』(小林信彦・新潮社)を読み終えた。 このほうが好きだな。 それにしてもこの本を読み切るのに、えらい日数がかかってしま った。400ページ近い厚さもあるけど、『桃太郎電鉄』が、ゲー ム業界の寅さんと呼ばれるだけに、いちいち自分のゲームが置かれ ている立場を比べながら読んだせいもある。 監督の山田洋次さんが、3作目、4作目を監督しなかったときの 言葉が印象的だ。 「良い悪いではない、寅さんのにおいがしない」。 そういって、5作目から最後まで監督したそうだ。 うれしくなる言葉だ。 と同時に、この「におい」がわかってもらえないときの、歯軋り が他人に理解されないつらさは、たとえようがない。 私が『桃太郎電鉄』をカードの名前にいたるまで、他人まかせに しないのはこのせいである。 私が最近CDロムのゲームにまったく興味が無くなって、iモー ド・ゲームに魅力を感じるのも、この「におい」が原因だ。 大規模ゲームは、一個人の発想が、何人もの人の手を渡っていく うちに、伝言ゲームになって行って、私の「におい」がどんどん消 えて行く。 もちろん『ファイナルファンタジー』や『バイオ・ハザード』な どは、逆に大規模CDロムにふさわしいゲームだと思う。力技が必 要だし、チームで作るよさが出ている。いわばハリウッド映画だ。 私の作品は、どこまで行っても、『寅さん』だから、規模の小さ いゲームのほうが、すべてを俯瞰で見渡せていい。 細かい部分まで手作りで作りたい。 そういう意味では今回、新作『桃太郎電鉄』は、楽しく作れたけ ど、きめ細かく作れた最後の作品になるかもしれないな。 シリーズが長いだけに、チームのメンバーも『桃太郎電鉄』の 「におい」を知ってるから、やりやすい。 …というより「におい」を感じ取るのにも能力が必要だというこ とを痛感する。 今後も「におい」を感じ取ることができない人との仕事はしない ことだな、うん。…と自分に言い聞かせる。 さらにこういうことを考えるためにも、本を読む時間が必要なり。 夕方、嫁に新作『桃太郎電鉄』の仕様書全部のプリント・アウト を頼む。膨大な量だ。今夜、家に忍び込むと、新作『桃太郎電鉄』 の設計図を盗めるってわけだ。でも匂いまでは盗めないからね。 それにしても、今夜いっぱいかかりそうだ。プリント・アウトす るだけで。 午後7時30分。近所のスパゲティ屋さん「ロートロ」で食事。 なすしめじ。醤油味で美味。 和風のスパゲティはみんな醤油味だろうけど、これだけ醤油風味 がきつくても、美味しいのはちょっと意外。 午後8時。帰宅。 嫁にプリント・アウトをおまかせして、私は好き勝手にさせても らう。本を読んだり、ネット・サーフィンしたり、部屋を片付けた り。だらだら、へろへろ。
-(c)2000/SAKUMA-