6月17日(土) 天気予報通り、京都は雨。 雨だけど、私にはでかけなければいけない大事な任務がある。 いわば『ミッション・インポッシブル2』である。 ちなみに『ミッション・インポッシブル1』のほうは、出だしで 大量の外国人が出てきたため、私は15分で見るのをやめた。誰が 誰だかわからなくなったのだ。 ゆえに、トム・クルーズが出てたことも覚えていない。 今度の『ミッション・インポッシブル2』の略称の『M:i2』 ってのも変だね。『M:i2』の『2』は、パート2という意味では なくて、2000なんだってね。 大事な任務に戻る。 午前8時。雨の中、京都駅に向かう。 午前8時41分。ひかり177号博多行きに乗る。 何!? この男、また九州に向かうのか!? ありえないことではない。 大事な任務を帯びているのだから。 午前8時53分。京都駅を出て、12分後、新大阪駅着。男はお もむろに新幹線を降りるではないか! どこへ行くのだ? 午前9時。男は、新大阪駅構内の喫茶店「Aポイント」に入った。 セルフサービスだ。サンドイッチにコーヒー。 ぬるいコーヒーを喉に流し込む。 男は、コンピュータを広げ、携帯電話のなかから、ある番号を選 んだ。 トゥルルルル…。 大事な任務を遂行する時が来たようだ。 「戸田圭祐〜ッ! わしはもう新大阪駅に着いたぞ!」 「あわわわわ。いま、弁天町で、電車に乗るところですわ! あわ わわわわ〜!」 「別にあわてんでもいい!」 ま〜た、戸田圭祐かい! つくづくこの男、よく日記に登場する。 午前9時30分。最古のさくまにあ・戸田圭祐が、新大阪駅に到 着。いっしょにお茶を飲んだのち、ホームへ向かう。 20番線ホームには、すでにひかり363号レイルスターが入線 していた。 この男の大事な任務というのは、このレイルスターに乗ることだ ったのである。3月11日新大阪―博多間にデビューした、ひかりレイルスター。 『桃太郎電鉄』の作者としては、いち早く乗りたかったのだが、京 都駅から乗って、わざわざ乗り換えるのが面倒で、ついつい乗る機 会を失っていた。 その間に、あろうことか、『ファミスタ』の作者・岸本好弘さん に、姫路から新神戸までレイルスターに乗るというせこい技で、先 を越され、5月に戸田圭祐までレイルスターに乗るという暴挙を敢 行! 私の面目はすっかり丸つぶれになっていたのである。 もっとも、戸田圭祐は、パソコン用のコンセント付きのオフィス シートを予約したにもかかわらず、窓口のお兄さんのミスで、オフ ィスシートに座れなかったという天罰を喰らっていたので、許して やろう。 そのオフィスシートに今から乗る。 このシートに乗るために、私は雨の中、わざわざ京都から、VA IOを携えて来たのである。 新大阪の喫茶店で、VAIOを開いたのも、せっかくオフィスシ ートで充電できるなら、今のうちにバッテリーをつかっておこうと いう、戸田圭祐っぽい考え方を私もしてみたのであった。 もちろん、戸田圭祐には「そんなの当然ですわ!」と言われた。 午前9時58分。そんなわけで、戸田圭祐と、ひかり363号レ イルスターに乗車。 オフィスシートはどこかいな? 何ィ〜! 1番のA席!? 目の前が、壁の席ではないか〜! そうかあ! JRさんにしてやられたなあ! 「あんたら、ずっとパソコンいじってるんやから、景色見えなくて もええでしょ?」というわけだ。 しかもこのオフィスシート、1車両に1ヶ所、一番前の4席だけ なのである。 私は、1車両全部、オフィスシートになっていて、ドアを開ける と、かつての目薬のCMのように、全員が、カタカタ…、カタカタ …、キーボードを叩いている図を想像していた。 とりあえず、座る。 妙に、テーブルが縦に長い。 コンピュータを置くのに、縦に長いテーブルのほうが、便利なの かな? 凡庸なパソコン使いの私にはその利点がよく理解できない。 座席の周りを見渡す。 目の前に効能書き(言い方が古い!)があるではないか。 読んでみよう! !テーブル使用上の注意 [重量は10キロまで] ●テーブルに思いものを置かないでください。 !パソコン用コンセント ●テーブルの下には、パソコン用のコンセントがあります。 ●ご使用の際は、コンセント横の注意書きを必ずお読みください。 でもって、コンセント横の注意書きも読んでみる。 !パソコン用コンセント [AC100V2A] ●電源容量を越えるものには使用しないでください。 ●このコンセントの電源は、非常時に停電することがありますので、 必ず、データ等のバックアップを行った上で使用ください。 ●コンセント上のランプが点灯していない場合は、乗務員にご連絡 ください。 特筆すべきは、コンセントだ。 家庭用のコンセントのように刺したのち、右に回す。どうやらロ ックがかかるようになっている。 ただ戸田圭祐に刺してもらったので、「なるほど便利!」と言え ない。しかも「どうだった?」と聞くと、「へ〜、右に回したとき も、カチッと言いまへんでしたなあ」と、いつも通りに曖昧である。 もうちょっと未来を予感させるような、いろんなコンセントやジ ャックがついたコクピットであってほしかったぞ。 やけにシンプルな座席だ。 むしろ、縦に長いテーブルはお弁当を食べるときに便利そうだ。 午前10時45分。岡山駅着。 レイルスターに乗るのが、大事な任務だから、1駅でよいのであ る。 在来線のほうに降りて、戸田圭祐が携帯をつかい、渡空燕丸(わ たりぞら・つばめまる)さんを呼び出す。 『月刊さくまにあ』で『つばくら草紙』を連載している、渡空燕丸 さんである。 すでに岡山駅に来ているはずである。 おお! いた、いた! まだご飯を食べる時間には早すぎるので、犬養木堂(いぬかい・ ぼくどう)記念館まで行くことにする。 この犬養木堂(いぬかい・ぼくどう)という人は、五・一五事件 でおなじみの、あの犬養毅(いぬかい・つよし)さんである。 「話せばわかる!」であまりにも有名な人だ。 3人とも、無類の歴史好きだから、こういう記念館を見に行くこ とに誰も異論をはさまない。 雨で面倒だから、岡山駅からタクシーで行くことにする。 しかし、タクシーの運転手さんには、知らない場所だという。後 ろの人に先に乗ってもらって、次の車の人に聞く。 次の運転手さんは知っていた。 よかった、よかった。 乗って、開口一番「何にもないところですよ!」と言われる。 いやだなあ、それは。 まあ、しょぼい記念館にぶち当たるのは、なれているからいいや と、行ってもらう。 車は激しく降る雨の中、岡山の西のほうに向かって走り出す。 なるほど、どんどん繁華街を過ぎて、田園地帯に車は入っていく。 桃太郎で有名な吉備津神社が近いなあ。 しばらくして、新幹線の線路の下の駐車場のようなところに車は 着く。 えっ? ここ? 看板はあれど、それらしき建物がない。 まさか、目の前のお堂のような小さな建物? とても帰りに、タクシーを拾えそうもないので、運転手さんに待 っていてもらう。 「すぐ帰って来れますよ!」 それって、展示物が少ないってことじゃないの! 雨の中を歩く。お堂のようなものは、三十番神社とかいう建物で あった。よかった。こんな八畳一間のような建物が、記念館では、 わざわざタクシーまでつかってやって来た、われら3人浮かばれな い。 「木堂(ぼくどう)のこみち」という、立て札に案内されて、住宅 地を歩いていく。土の道である。舗装されていない。雨の中、舗装 されていない道を歩くのって、ひさしぶりだなあ! 妙にうれしい。 おお! あった、あった! いかにも、田舎の大きな家だ。 生家なのか。 土間を入ると、ええ? 入場料は無料なの? それは良心的! というよりも、前回、戸田圭祐と行った、名古屋の加藤清正記念館 も無料。戸田圭祐と無料の記念館の組み合わせはよく似合う。 生家の何部屋もある大きな家を見て、中庭に移動する。 まだ先がある。あれ? いったん家を出るぞ! うひょ〜! 隣りの大きな建物が犬養毅さんの記念館本体なの? しかもこっちも無料? なんて太っ腹なんだ? さらに驚かされたのは、なかの設備の立派なこと。 ちゃんと専従の学芸員さんもいるし、庭も枯れ山水で美しい。 トイレも豪華。 展示物もよくできている。 遺品もけっこう多い。遺品も何もないのに、300円くらい平気 で取る記念館が多いのに、なんて良心的なんだ。 犬養毅さんは、昭和生きた人なので、レコード盤で、演説が残っ ていて、肉声を聞くことができる。聞いてみたが、あまり上手くな い。でも性格のよさそうな声だ。小渕さんみたいな人だったのかな? 「話せばわかる!」と言って、凶弾に倒れてしまったような人だも んな。 さらにわかったことは、犬養毅さん、凶弾に倒れたあとも、虫の 息で「今の青年を呼び戻せ! 話せばわかる!」ともう一度、「話 せばわかる!」を言ったそうな。 よっぽどお人よしな人だったのだろう。 何だか、無料のまま帰るのも悪く思い、『岡山県人物シリーズ2・ 犬養木堂』というビデオを買った。3600円なり。 岡山県人物シリーズの1は、誰なのか気になってしまう。誰だ? 午後12時30分。岡山駅からちょっと離れた西大寺町にある「ま まかり」というお店に行く。 岡山名物の「ままかり寿司」である。 美味しさのあまりに、ご飯(まま)を借りに行くとまで言われる、 ままかり寿司のことだ。 岡山駅でもよく駅弁などになって、よく売っている。 しかし、あの駅弁のままかり寿司、私も仕事柄、何度も食したの だが、どうも美味しいとは思えなかったのである。 しかし、ままかり寿司は、岡山市内の本格的なお店のほうが、圧 倒的に美味しいということを聞きつけ、こうしてこのお店に来てみ たのである。 なんとも、高級割烹そうなお店で、早くも戸田圭祐の顔がこわば る。戸田圭祐! 今回はおまえが頼りなんだから、いつもの不安げ な顔をせんでくれ! 私が酢のように、酸っぱいものが苦手で、渡空燕丸さんは、生も のがまったくダメなのだから、最悪の場合、戸田圭祐が3人分食べ る約束になっていたのだ。 格子戸をガラガラと開け、高級料亭にありがちな白木のカウンタ ーを見て、戸田圭祐、ますます顔がこわばる。いいかげんこういう お店になれろよな。何度も連れて行っているんだから。 おお! 渡空さんは、穴子の天丼があるから、こっちにしなさい。 私と戸田圭祐は、ままかり御膳だ。 これだと、ままかりの酢漬け、ままかり寿し、ままかり炭焼きの 3種類が入っている。でもほとんど懐石料理である。 ままかり3種は、たしかに、駅弁とは比べ物にならないくらい美 味しい! でもままかりのためだけに、しょっちゅう岡山に来るか というと、来ないなあと思ってしまう食べ物であった。 「ままかりは、酒飲みに合う食べ物やないですか?」と、戸田圭祐。 さすがコップ1杯のビールで眠くなれる、サントリー・レッド愛 好家の戸田圭祐である。 私はお酒は一滴も飲めないので、ピンと来なかったのだろう。 午後1時30分。岡山駅の脇に立つ、グランヴィア・ホテルの喫 茶ルーム。 ここで最後の任務。渡空燕丸さんの進路問題を話す。 いろいろ前向きな話し合い。 一応、『つばくら草紙』は、ストック分の1本か2本で、終了し て、今後新しいステップに挑戦することになった。その挑戦のため にしばらく『月刊さくまにあ』での連載はお休みになる。 具体的な話をしたのだが、内容については、実現したときに、渡 空燕丸さん本人からみんなに報告があることだろう。 その答えは1年後になるか、2年後になるかわからないが、お楽 しみに! ホテルを出たら、雨が上がっている。 ああ! 帰るのがもったいない。 午後3時10分。のぞみ20号で、戸田圭祐と京都に向かう。 車中、例によって、新作『桃太郎電鉄』のアイデア出し。 不調。こんなことでは横浜ベイスターズが、8連敗してしまうぞ! とiモードのプロ野球速報を見たら、雨天中止。8連敗ではないが、 連敗続行中なことに変わりはない。 午後4時9分。京都駅着。 京都に着いたら、雨。 岡山はもう晴れたのに。 のぞみ新幹線で、雨雲に追いついてしまったようだ。 伊勢丹デパートB2で、大量にミネラルウォーターを買って、京 都のマンションへ。 戸田圭祐の『桃太郎電鉄V』のプレイを見る。 24年目にして、トップに立つものの、キングボンビーを喰らっ て、ボンビラス星に行き、最下位に転落。 もちろん「あわわわわわ! ぬわわわわわ!」連発である。 マシンガンあわわわわわ!である。 午後6時30分。なかなか雨がやまない。岡山で晴れた天気はど こへ行ってしまったのだ。 新京極の「ラケル渋谷」というオムライス中心のお店に、戸田圭 祐と入る。渋谷区の住民が、わざわざ京都まで来て、「渋谷」と名 前のついたお店に入るとは、いかがなモンテスキュー。 森林風きのこオムライスを食す。 悪くない味だ。 戸田圭祐は、ソーセージ・オムライス。 「おむらいすルフの味に似てませんか?」 そこまでは行っていないだろう。 でも京都のマンションから、3分。ひとりでも入りやすい。味も まあまあということで、このお店は、キープ! 食後、雨の日は空いているだろうと、三条大橋の「スターバック ス・コーヒー」に行くも、超満員。キャラメル・マキアートを買っ て帰り、再び戸田圭祐の『桃太郎電鉄V』プレイを見る。 ゴールドカードで、東京のテレビ局を買った戸田圭祐はご満悦で ある。こんなにうれしそうな顔をふだん見たことがない。 大いに、新作『桃太郎電鉄』の参考になる。 午後9時30分。戸田圭祐が帰る。 私はもちろん、新作『桃太郎電鉄』の仕様書作り。 きょうはちょっと夜遅くまで、お仕事をするつもり。
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