さくまあきらホームページ:仕事人裏日記




6月5日(月)


 湯布院の朝は、まだ寒い。
 朝霧で有名なところなので、しっかり寒い。

 午前8時。ここの朝食もまた、幸せを満喫できる味だ。
 炭火の上で、魚を炙り、海苔も炙る。
 ナスと玉ねぎの味噌汁。玉子焼き。地元で漬けたお新香。
 どれも、日本旅館の朝食にふさわしい。
朝 朝
     グルメ・バカ娘が朝から「幸せ!」を連発する。  たしかに幸せだ。  私が家族いっしょにご飯を食べたのは、47年間のうち、わずか 5〜6年である。厳密に言えば、3歳のときに、実の母が亡くなっ ているので、プラス3年かもしれない。覚えているはずもない。  のちの5〜6年もけっして楽しい団欒ではない。  弱みを見せたら、すぐさまつけこんでくる継母に、後ろを取られ ないようにする戦場であった。食卓がいちばん、私から情報を得る ことができる場所だったのだろう。  継母には、今も無口な男と思われているはずだ。  もちろん嘘である。私はずっと継母の前では、演技を通した。  今こうして、グルメ・バカ娘とギャグを言い合う姿を見せてやり たいくらいだが、また新たな戦争が始まるのは嫌だ。  美味しい食事のあとに、笑いが止まらなくなって、終いには、し ゃっくりが止まらなくなる、アホな娘との食事のほうが、何千倍も 楽しい。
朝
     午前10時。荷物を「亀の井別荘」に置いたまま、湯布院の町を 散策にでかける。前回、前々回、見に行かなかった、美術館めぐり が今回のメイン。  湯布院には、現在約30の美術館があるそうだ。  由布岳を背にして、水田を歩く。
散歩
     湯布院というのは、水田の緑色といい、ホタルの緑色といい、由 布岳の緑色と、とにかく緑色が美しい町だ。  しかもその緑色は、決してデジカメなどで表現できない、緑色だ。  だからその分、湯布院は、旅行ガイドで写真を見てから来ても、 失望しなくてすむ。こういう町は珍しい。  そう思うと人間の目ほど、素晴らしいカメラは無いね。  あるときは、広角レンズになるし、あるときは、パノラマ写真に なるし、ズームにもなる。目でその土地の空気も味わうことができ る。  まず「Y・K」という美術館に入る。  日本画家の有名な作品が展示されているのだが、これがあまりに も無造作に壁に、貼り出されている感じがして、ムッとする。  まるでコレクターが、いっぱい買いすぎて、置いておくところが 無いから、だったら美術館にして、お金取ってしまえば、節税にも なるぞと思って作ったような展示の仕方だ。  だいたい美術館なんてものは、小学校の1クラスの壁に、4〜5 枚の絵を飾れば、けっこうぎっしりなレイアウトなほうだと思う。 この美術館は間違いなく、10枚は飾っている。  しかも、黄色くなった、新聞の切抜きが垂れ下がっている。  凧(たこ)の吹流しの紙じゃないんだからさあ。  これじゃ、美術の教科書に載るような作家の作品も浮かばれない。 ひとりなど、私が大学受験の歴史で覚えたくらい高名な画家さんだ。   作家は、作家の心を知る者のためなら、お金も入らずに、働く動 物である。歴史の教科書に載った画家さんは、この美術館をどう思 うか、生きていたら、聞いてみたいものである。  そそくさと、この趣味の悪い美術館を後にする。  再び、天気のいい田園を歩く。  昨日、一昨日の雨模様が嘘のように、青空が広がる。 「蛍観橋」というのが、新しく架かっていた。  まだ白木の匂いが、ぷうんと強い。  ホタルの里という名前に胡座をかかず、常に新しいことに挑戦し ているこの町の精神は本当にすばらしい。
散歩
     この町を訪れる人のほとんどは、2〜3人で来る女性客か、家族 連れだそうだ。そりゃあ、慰安旅行のおっさんたちがいたら、似合 わない町だ。そのせいか、町に清潔感があふれている。  午前11時。クラフト館「月點波心(げってんはしん)」に入る。
月點波心
     木工製品が置いてあるお店だ。最近この手のお店は観光地に多い のだが、ずいぶんと充実しているお店だ。  聞いたら、本当に林業を営んでいる人が始めたお店なのだそうだ。  木だけでできた、バイクとか。自転車といった大掛かりな製品が 多い。  そのなかで、木製の機関車を気に入ってしまった。
月點波心
     レールまでついている。  ちょうど数日前、『桃太郎電鉄』の駒キャラのデザインを考えてい たところだし、こんな大きな物が家にあったら、かつて男の子だっ た大人は、しばらくこの機関車を動かして、喜ぶことができるだろ う。    嫁にねだって、買ってもらう。  意外なほど、値段は安かった。  プレステ2よりも、全然安い。10万円以上すると思っていた。  しかし家の応接間に入りきらないような気もする。  『桃太郎電鉄』の作者としては、こういうものを持っていたほう が、取材に来たときなど、絵になるだろう。うちは絵になるような 執筆室というか、作業場がないので、いつも取材の人が写真を撮る ときに困らせてしまう。  午前11時30分。その後も、「猫屋敷」とか、雑貨屋さんを覗 いて、イチゴ果肉ソフトクリームを食べたりしながら、ようやく昨 日行き損ねた、かぼす醤油を売っているお店にたどりつく。
散歩
    「昔ばなし乃店」という変な名前のお店だけど、本来はここのお店 は「醤油屋」といって、お醤油を作るのが本業だそうだ。だから、 かぼす醤油が美味しいのだろう。  どのくらいこのかぼす醤油が美味しいかというと、私が買った本 数を想像してもらって、判断していただこう。  3本? ちっちっち。全然!  10本? そのくらいじゃこの美味しさは伝わらない。  20本? もう十分驚いたでしょ?  30本? その通り!    正しくは、漫画家兼霊能者の岩崎摂さんに1本送ったから、31 本が正解! 掛布の背番号!    甘くってね、かぼすの香りでさっぱしていてね、本当に美味しい んだよ。昨年12月買ったときなんか、外食がほとんどの我が家な のに、1ヶ月もたなかったからね。  今回の湯布院行きは、もちろん「亀の井別荘」で、ホタルを見る が、いちばんの理由だったけど、2番目の理由は、このかぼす醤油 である。   午後12時。「亀の井別荘」に戻り、昼食。  レトロ風の洋食レストランみたいな「蛍火園」で、タンシチュー 中心の料理。
蛍火園 蛍火園 蛍火園
     ご飯も美味しいが、この洋風の館を吹き抜ける風がまた気持ちい い! さわやかな風が自然に集まって、この館にメロディを奏でに 来た楽団のようだ。  ひさびさに人工のクーラーではない、涼しい風に感動する。  子どもの頃、こういう風はいくらでも味わえることができたのに ね。遠く湯布院まで来ないと、味わえなくなっちまったんだねえ。  食後、昨年12月湯布院から、別府まで乗ってなかよくなった、 湯布院みなとタクシーのIさんに来てもらうつもりだったが、きょ うは非番のようで、Iさんの友人である、Eさんを紹介してくれた。  きょうはこれから思い切り、駆け足の大旅行を敢行しようと思っ ている。地理にくわしい人なら、かなり驚く旅程だ。  とにかく、『桃太郎電鉄』九州マップ部分の総仕上げで、いくつ か調べておきたいことが、あと少しだけ残っている。これを電車で 回ろうとすると、2〜3日必要。そんな時間はない。  午後1時。まずは、まだ湯布院。「K」という美術館に行っても らう。ここは町内でも外れにあるので、ここまで歩いて行くと、時 間がなくなる。  館内には、土俗面とか、鬼の面とか飾られているが、とりとめが ない。湯布院は美術館が多いが、ピンとこないものが多いなあ。何 だか文化祭の前日に、あわてまくって作った研究レポートのようだ ぞ。どこも素人臭い。いい美術館はどれなんだろう?  おかげで、すぐこの「K」という美術館を後にすることができた。  湯布院みなとタクシーのEさんは、まったく信号機のない地元の 人にしかわからない道を走ってくれる。きょうの超駆け足旅行に必 死に協力してくれようする。いい人だ。    湯平(ゆのひら)温泉という秘湯を通り、冠山(かんざん?)を 回り込み、久住(くじゅう)から、豊後竹田(ぶんごたけた)に出 る。
豊後竹田 豊後竹田
     午後2時30分。道の駅・竹田(たけた)に着く。  最近この「道の駅」の台頭が目覚しい。  鉄道擁護派としては、「道の駅」の発展は、あまりうれしくない のだが、お土産品の充実は、こっちのほうが進んでいるので、つい 寄ってしまう。  きょうも、竹田名物「はら太餅」の原型である「ゆでもち」をこ の道の駅・竹田で、味わうことができた。  かぼすの入浴剤も、別府などでは、大きなプラスティックの瓶に 入ったのしかなかったのだが、ここでは分封で売っている。またま た30袋も買ってしまう。そのくらい爽やかで気持ちのいい、入浴 剤でっせ。  忘れず、かぼすジュースも飲む。竹田で作られる、このかぼすジ ュースは非常に美味しい。販売店が少ないのが、もったいない。こ のところ、和歌山ラーメン、函館ラーメン、久留米ラーメンと、地 方の名前がついたラーメンが流行しているが、今後、地方の名前の ついたジュースもありのような気がする。  竹田のかぼすジュース。  八代(やつしろ)のばんぺいゆジュース。  松山のポンジュースはすでに有名か。
豊後竹田
     午後3時。竹田市内に入り、「荒城の月」で有名な、岡城跡へ。  やっぱり、滝廉太郎の「荒城の月」が流れている。
岡城
     しかし、グルメ・バカ娘はこの曲を知らないという。  そういう時代になったということだろう。  その証拠に、古いドライブイン兼お土産物屋は、覇気が無い。  やっぱりあった「荒城の月」という名前のおまんじゅう。おっ。 ふたつのメーカーから発売されているのか。1ヵ所からしか発売さ れていないと、『桃太郎電鉄』の物件として採用することができな い。町の名物ではなく、そのお店の名物になってしまうからだ。  許可を取ればいいのだが、これがけっこう、許可は出すけど、口 も出すになることが多い。  1000万円、50%の物件でなく、100%の収益率にしろと か言われても困る。  さて、岡城を登るかと、悩んだが、やめる。  ここで体力を奪われると、あとがつらい。  しかも、このお城、大手門復元維持のために、登城料金を取るよ うなのだ。苦しい思いをして、お金まで取られのは、何だしね。  午後3時30分。滝廉太郎記念館に向かう。
滝廉太郎記念館
     記念館に入りかけて、足が止まる。  ひとりのおばちゃんが、観光客14〜5人を広間に集めて、とく とくと館内の解説をしている。その姿、ちょっと新興宗教のようだ。  ここでうっかり入れば、1時間ぐらい、おばちゃんの説話を聞か されるはめになるだろう。  ここで1時間は、F−1でいえば、リタイアに近い。  おばちゃんには悪いが、先を急ぐ。  帰りに、竹田名物「はら太(はらふと)餅」を買う。  これは何度か、東京の地方物産展で買って食べたことがあるのだ が、あまり美味しいと感じなかった。  でも今食べた「はら太餅」は美味しい。  やっぱり名物は、現地で食べたほうが美味しいね。土地の空気と いっしょに食べるものなんだね。  しかも「はら太餅」といっしょに買った「水大福」が、それはそ れは絶品! ただし、このお店のオリジナル商品なのだろう。『桃 太郎電鉄』の物件には、難しいか?   再び、先を急ぐ。  湯布院みなとタクシーのEさんは、いろいろ解説してくれながら、 休むことなく、運転してくれる。  しかも私が突然「あれは何だ!?」と叫ぶと、通り過ぎても、す ぐバックして、そこまで行ってくれる。理想的な観光タクシーの運 転手さんだ。  途中の清川村でも、わざわざかなりの距離を戻ってくれた。  神楽の里のようだが、やっぱり鬼っぽい造型を見つけると、近づ いて見てみたくなる。
清川村
     そのうち、さすがの私も疲れてしまって、ちょっと居眠り。  グルメ・バカ娘はいつもぐーぐー。  午後4時30分。臼杵(うすき)石仏に着く。  いわゆる石の崖に、仏様を刻む、「磨崖仏(まがいぶつ)」だ。  この「磨崖仏」という言葉を聞いて、「さくまサン、またそんなと ころに行っちゃって、大丈夫?」と思った人は、とても素晴らしい さくまにあだ。特別に「さくまにあ五段」を認定したいくらいであ る。  昨年の11月。私は国東(くにさき)半島の、熊野磨崖仏で、岩 を99個無造作に積み上げただけの石段に、過去最高の立ち往生を 記録した。  今でも、絶対二度とあの磨崖仏には行かないと思っているし、国 東半島に行く人、東にあらば、行って、あんなところに行くなと、 西に行ってみたいという人あらば、行って、死んでも知らんぞとい いたい。雨にも風にも、負けるぞ!  そんな私が行く気になったのは、Eさんの言葉。  車イスの人でもいける。  それは、素晴らしい。    たしかに、行ってみて驚いた。  石仏まで、長いスロープになっていて、階段が無いのだ。これな ら車イスを押して行くことができる。
臼杵石仏
     熊野磨崖仏! おまえ、臼杵まで来て、改心しろ!  ここは、スロープのあげく、手すりまでついているぞ!  おまえのところは、何だ! 手すりも何もないじゃないか!
臼杵石仏
     臼杵石仏の良さが、熊野磨崖仏のひどさのせいで、際立つ、際立 つ! 疲れていなかったら、すべて見てまわるつもりだったのだが、 とりあえずホキ石仏を拝んで、あとはお土産品屋さんを取材して帰 る。  臼杵(うすき)は、とらふぐの漁獲高日本一なので、ふぐ天丼を 食べさせるお店が多いようだ。  いちばん有名な、臼杵せんべいは、生姜(しょうが)の匂いがき つくて、あまり美味しくなかった。収益率の低い物件になりそうだ。  車は、東九州自動車道を走る。  あっというまに、サル山でおなじみの高崎山を通り、大分を通り、 別府に着く。別府にインターを下りたところに、ホテル「芙蓉倶楽 部」がある。  午後6時。別府のホテル「芙蓉倶楽部」に着く。 ようやく、ここで、きょうの駆け足旅行が、終了である。  またホテル「芙蓉倶楽部」に泊まる。私は通算4度目の宿泊、一 昨日も泊まったばかりであるが、嫁とグルメ・バカ娘は初めて。  着いてすぐ、おなじみ大浴場へ急ぐ。  またまた大浴場ひとり占めだ!  窓から鶴見岳の眺望もひとり占めだ。  もはや自分の家のお風呂のように、リラックス。  午後7時。1Fのレストラン「プルミエ」で、美味しいフランス 料理をいただく。フランス料理というと、うちはあの「プティ・ポ ワン」の味を知っているので、ちょっとやそっとの味では、丸印を 出せないのだが、ここのレストランの味は、かなり○に近い。  我が家にしては、とても高い評価だ。  シェフの名前が、高岡さん。「プティ・ポワン」は北岡さん。何だ かおいしさの秘密が!  いちいち料理の名前を教えていただけたのだが、フランス料理の 名前は全然覚えられないので、ぜひとも写真のほうで、美味しさを 味わってほしい。
プルミエ プルミエ プルミエ プルミエ プルミエ
     午後9時。マッサージを受ける。昨日のマッサージさんは、とて も痛いあげくに、下手だったが、きょうの人は、上手だし、別府の 歴史についても、いろいろ教えてもらって、うれしいかぎり。  もう70歳を越えたおばあちゃんなのだが、住所をメモしてもら う。次にまたここに来たら、頼みたい。  かなり眼精疲労が激しいと言われたが、こうしてまたVAIOを 開いて、日記を書いてしまう。目にやさしいコンピュータっていう のはできないもんかね。  夜更かしはいかん。寝よう。  明日は、京都。
 

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