さくまあきらホームページ:仕事人裏日記




6月4日(日)


 別府のホテル「芙蓉倶楽部」から見える景色は気持ちがいい。
 別府湾が山の上から、一望できる。
 いくつも立ち上る湯煙りの白色が美しい。
 しかしきょうは曇っているので、別府湾がけむっている。
 海が見えると、このホテルからの眺望は最高なのだが、昨日の豪
雨は鹿児島を襲い、別府は外れたことを良しとせねば。
 きょう、豪雨だったら、泣くに泣けないイベントが待っている。

 午前8時。1Fで朝食。
 ここの朝食がまた美味しい。
朝食
     美味しいものを食べると、いつも「幸せだなあ」と思うのだが、 朝からこんなに「幸せ」でいいのだろうか。  鮭に、だんご汁に、椎茸の佃煮、温泉玉子。  大分の味オールスターだ。  午後10時。ホテルをチェック・アウト。  昨日ホテル「芙蓉倶楽部」まで乗せてもらった、泉都別府タクシ ーのSさんに来てもらって、大分空港へ向かう。  もちろん、私が飛行機に乗るわけがない! 断固。  嫁とグルメ・バカ娘を迎えに行く。  途中、Sさんから、別府について、あれこれ聞く。  タクシー歴30年のSさんは、間断なく、別府の歴史から、周辺 の町の情報まで話し続けてくれる。  相槌を打っているだけの私のあごが疲れてしまったほどだ。  おかげで、ずっと前から聞きたかった、大分弁の「よだきい」を 生で聞くこともできたし、どういう使い方をするのかも教えてもら えた。 「よだきい!」というのは、かったるいとか、しんどいという意味 で、どちらかというと、「そげん、よだきいこと、ようせんなあ!」 と否定語としてつかうことのほうが多いそうだ。  私が旅先で、よくタクシーを利用するのは、このためだ。  取材もいっしょにできる。  ただ若い人の運転だと知識が無いので、運悪く若い人にぶつかっ たら、近くで降りて、ほかのタクシーに乗り換えるというようなこ ともする。  しかも交渉次第で、タクシー代も、いくらでも安くなる。  午前11時30分。大分空港に着く。やばいぞ! 嫁とグルメ・ バカ娘が乗ってるはずの、JAL133便は、午前11時20分に 到着の予定だ。  もう着いてしまっている!  運転手さんに待っていてもらって、あわてて到着ロビーに行く。  あれ? 誰もいない。  ひょっとして、ホバークラフトに乗って、大分に行ってしまった のかな? 当初は、大分で待ち合わせる予定だったが、メールで、 迎えに行くと送ったはずだ。嫁からOKのメールも届いている。で もメールがからむと、どうも自信が無い。  表示板を見る。  JAL133便。午前11時20分着とある。  その下のソウルからの便も、午前11時20分着とあって、「到着 済み」の表示も出ている。  どういうこと?  飛行場自体、まず来ることがないので、わけがわからない。 「あの〜、すみません。あそこの表示板の午前11時20分着とい う東京からの便は、まだ着いてないってことですか?」と、地元の 人に聞く。 「え〜、そうですよ。まずここは時間どおりに来ませんよ!」  何だって! 遅れるなら遅れるで、何か表示板に書けよ!  私が言った言葉が聞こえたのか、パッと表示板に「時間変更20 分おくれ」と出た!  なめとんのか!  アナウンスもせんと、20分も平気で遅れるな。  これが新幹線なら、20分で、京都から新大阪を過ぎて、新神戸 に近づいているぞ!  運転手のSさんも到着ロビーに来てくれた。心配して来てくれた わけではなかった。 「そうですよ。ここの飛行機は、ま〜ず、時間どおりには来んとよ!」  そういうしきたりなのか。  だったら、時刻表にも、午前11時20分過ぎと書け!  しかもどうせ、到着ロビーを出るのにも、時間がかかるのだろう から、午前11時40分も、どうせ午前11時50分になるのだろ う。こういうことをいけしゃあしゃあとやる飛行機がやっぱり私は 嫌いだ!  午前11時50分。嫁とグルメ・バカ娘が到着。やっぱり30分 遅れじゃないか!  聞けば、羽田を離陸するときに、すでに混んでいて、出発が遅れ たそうだ。  最初から遅れるのは、わかってたんじゃないか! 「お〜。ひさしぶり!」  グルメ・バカ娘とは、10日ぶりくらいの対面である。 「腹減った!」  またか。おまえの「腹減った!」は、吉本興業の芸人さんの持ち ネタのようだな。    さて、今の時期は、城下(しろした)カレイがいちばん美味しい 季節だ。もちろん、この城下カレイを食べるために、ふたりはやっ て来た。  話は、2日前に遡る。  今ごろ、大阪で華燭の典をあげているであろう、放送作家の福本 岳史くんがこう言った。 「さくまサン、城下カレイを食べに行くなら、テキザンソウがいい と、母が申しておりました!」 「えっ? テキザンソウ? どういう字を書くの?」 「へ?」 「す、すみません! どういう字なのか聞いてくるのを忘れました!」  その日、私はインターネットで必死に調べたのだが、「テキザンソ ウ」と音だけでは、さすがに検索することができなかった。 う〜ん。悔しいなあ。福ちゃんのお母様というのは、先日行った 「メスキート」を紹介してくださったことでもわかるように、相当 のグルメのようだ。だからよけいその名前を知りたかった。  京都なら、また何度でも来れるが、日出(ひじ)にそうそう簡単 には来ることができない。  けっきょく、『旅・王・国』(昭文社)に載っていた、2軒から 選ぶしかないと思っていた。  ところが、空港に向かう途中、運転手のSさんが「日出(ひじ) の城下カレイを食べるなら、テキザンソウがいちばんいいですね え!」と突然言うではないか! 「ちょ、ちょっ、う、運転手さん、今何とおっしゃいました?」 「テキザンソウですか!」  ここで横溝正史の映画なら、いつものちょびヒゲのおじさんが出 て来て「よし! わかった!」と叫ぶ場面である。  親切な運転手さんは、わざわざ無線で電話番号を調べてくれた。  そんなわけで、空港に着いた嫁に、この「テキザンソウ」さんに 予約を入れてもらう。  しかし、今が城下カレイが旬の時期。しかも日曜日。そして、最 高のお店と来ては。予約でいっぱいなのはあたりまえ。  すぐは無理で、なんとか午後1時30分に入れてもらえることに。  まだ1時間30分ある。  それならと、昨年最古のさくまに・戸田圭祐と旅した、杵築(き つき)・日出(ひじ)で、よかったところをダイジェストで回って もらって、その「テキザンソウ」に向かって行くことにしよう。  嫁とグルメ・バカ娘は、大分空港は初めてだ。  そうだ。もう「テキザンソウ」と表記しなくてもよかったんだ。 「的山荘」と書いて、「テキザンソウ」と読む。  ちなみに「テキザンソウ」を、変換すると「敵算荘」。中途半端 な変換の仕方だな。  車は、杵築(きつき)の武家屋敷街に向かう。  ふたつの丘を結ぶ、急坂が美しい場所だ。  ひとつの丘には、上級武士の屋敷が。もうひとつの丘には、下級 武士が住んでいたという。さらに谷底になった一帯には、商人の町 が形成されていた。  わかりやすい町だ。
杵築 杵築
 しかも杵築は、昔からずっと時間が止まったような町で、細工を 入れず、昔のままを観光地としている。だから、家の塀など、粘土 を子どもがひんまげたように、ゆがんでいる。そのままを平気で見 せている精神がいい。
杵築 杵築
 あいにく、天気がまだ曇り空で、少しずついい天気になろうとし ている最中なので、戸田圭祐と訪れたときの抜けるような青空を、 ふたりに見せられないのが、残念だ。 しかしいかにも、サスペンス劇場で、死体が転がっていそうな古 い町並みだ。というより、街角から、ひょっこり、片平なぎさが出 てきそうである。  続いて、日出(ひじ)の暘谷(ようこく)城へ。  海の中に、淡水が湧き出ているところがあって、そこで育ったカ レイが絶品なので、城下カレイと呼ばれるようになった、そのお城 跡と、海をグルメ・バカ娘に見せる。  こと、食い物がからむと、この子どもは天才的に一発で、その土 地から何からを、全部覚えることができる。美味しい物さえ食べさ せておけば、知識が増えて行くのだから、AIBOより、確実性が 高い。  娘をAIBOと比べるなと言われそうだ。  AIBO以下ではないかと、言えてしまいそうな若者が多い今、 AIBOよりいいというのは、立派なホメ言葉ではないか? 「そ こまでひどい若者いませんよ」という人がいたら、1ダースほどみ つくろって、見せてあげましょうか?  午後1時30分。いよいよ「的山荘(てきざんそう)」へ。おい おい、すごいぞ、この門構え!  門をくぐったところには、歴代天皇家が植樹された木が並んでい る。常陸宮様、三笠宮様…、秋篠宮様…、ひとりやふたりではござ らぬ。
的山荘 的山荘 的山荘
 いったい福ちゃんのお母様という方は、どういうお方なのだろう か? ひょっとして、日本の政治を裏から操る、いわゆる女帝と呼 ばれる人なのだろうか?  それとも、洋画家だけに、海原雄山のような方なのだろうか?  そのような方から、福ちゃんが生まれるなんて!  あっ。『美味しんぼ』でも、海原雄山の子どもは、山岡だもんな。  よかった、よかった。何がよかったのかわかりませんが。  しかし、すごい広さだなあ、この「的山荘」!  え〜? 敷地約4000坪?  ダメだ。さすがに、4000坪となると、どのくらいの大きさだ とたとえることもできない。  大正年に、金山を経営していた成清(なりきよ)さんという人が 別荘として建てたそうだけど、この「的山荘」の規模を説明するの には、言葉が足らない。  広間に「國本」と書かれた書が、壁にかかっていたが、この書は、 あの伊藤博文公のもの。だんだんすごいことになってきたでしょ!  とうとう、日本の初代総理大臣の登場だ。  そろそろ、この日記を読んでいる人に、とどめをさしてあげよう!  日本の伝統的木造建築にもかかわらず、トイレが、私の京都のマ ンションくらいの広さ! がび〜〜〜ん!   この料亭の規模に圧倒されてしまったが、城下カレイはすべて美 味しかった。昨年戸田圭祐と食べたものより、2倍の肉厚と、甘味 に圧倒される。  お時間のある人は、昨年11月中旬の九州旅行の写真とぜひ比べ てみてほしいものだ。
的山荘 的山荘 的山荘 的山荘 的山荘 的山荘
 午後3時30分。別府市内の古書店で、秘密の買い物。  私が50歳を越えたら、始めようとしているゲーム以外の仕事の ために集めている資料をここで、購入する。  こういう密命もおびてきているのだよ。  いったい誰の命令なんだ?  新しいことを始めるには、最低でも3年前から準備しておかない と。石の上にも3年とはよくいったものだ。
由布岳
 午後5時。ついに湯布院「亀の井別荘」へ。昨年12月の中旬に 訪れて、感動した日本旅館だ。
亀の井
 グルメ・バカ娘は、この旅館も、湯布院は初めて。  きょう通された部屋も、なかなか立派なのだが、昨年の12月に 泊まった部屋は、「亀の井別荘」のなかでも、最高峰と言われてい たものだけに、いささか拍子抜けする。  それでも、どこの日本旅館よりも、圧倒的に素晴らしいけどね。 巨人の松井が、5打数2安打だと、きょうはまあまあだなと思われ るようなものだ。5打数2安打。4割である。
金鱗湖
 そのまま、「亀の井別荘」の隣りにある、金鱗湖(きんりんこ) に行く。昨年暮れに来て、買っておいしかった、かぼす醤油を買い 求めに来たのだが、どうやらお店は、午後5時30分で閉まったよ うなのだ。おいおい。明日は月曜日だけど、お休みじゃないだろな あ。心配だ。  ここのかぼす醤油を買うのは、今回の旅のかなり上位の重要事項 なんだからね。  仕方無いので、遠回りして、「亀の井別荘」に戻る。  しこたま砂利道を歩いたので、もはや私は疲労のピーク。足もま ぶたも重い。疲労しすぎて、眠りたくても、眠れない状態!  畳の上に、ふとんも敷かず、枕に頭だけ乗せて、横たわる。  やっぱり、眠れない。  娘が私を真似て、横たわり、私を笑わす。  眠れないだろーが!  午後6時30分。食事の時間。  あまりにも眠いし、疲れているので、ご飯が食べられないかと思 ったのだが、昨年もここに来て、美味しい料理を堪能したので、最 初の「生湯葉のうに乗せ」を口にしたとたん、幸せモードに入り、 舌鼓をぽんぽこぽん!
亀の井 亀の井 亀の井 亀の井 亀の井 亀の井 亀の井 亀の井
 大分県の名物豊後牛は、ちょっとこってりしすぎて、私にはちょ っとつらい存在になってきているが、この「亀の井別荘」で出る豊 後牛は、蒸してあるので、やわらかくて、お寿司のトロのようだ。  地鶏も美味い。『桃太郎電鉄』次回作の物件に、地鶏農場を加え ておかないといけないな。  う〜。食い過ぎた〜! 苦しい。
亀の井 亀の井
 そういえば、1日3食も食べるのも、ひさしぶりなら、1日3食 白いご飯というのは、何10年ぶりだろう。  太ったぞ、これは。身体がずしりと重い。  午後8時。日曜日なので、本来なら『葵・徳川三代』を見る時間 だが、外にでかける。『葵・徳川三代』を蹴ってまで、でかけるも のといえば…。 「蛍」! 「ほたる」! 「ホタル」!    私は都会っ子なので、47年間ホタルというものを、生で見たこ とがなかった。学生時代、ギター片手に、♪こっちの水は、Am(ア 〜マイナイ〜)と、ギャグは作れても、本物を見たことがなかった。  ちばてつやサンの『蛍三七子(ほたる・みなこ)』という題名だ ったかなあ。美しい話を読んだときも、感動の場面で、ホタルを見 たことがなかったから、もうひとつ実感がわかなくて、くやしい思 いをしたことがある。  何でも、ホタルは今だと、午後8時から、午後8時30分ぐらい までしか、飛ばないそうだ。  わずか、30分。  それを聞いて、その時間だけ、ホタルを放つのかと思ったのは、 私だ。長年やらせの世界に身を置きすぎた。  自然に発生するそうだ。  こういうときに「発生」という単語は適切なのだろうか。  知らないものに対する記述は、慣用句に乏しいものだから、文章 を書くのもなかなかつらいものがある。  きょうは、素人になりきろう。 「亀の井別荘」を出たとたん、川の橋の下を、す〜〜〜と、ホタル が飛んだ!  おお! これがホタルか!  漫画で描くなら、丸ペンで、す〜〜〜と、長い弧を描かないとい けない場面だな。  緑色の光を放つのか。ふ〜ん。  満天の星とはまた違ったあじわいだなあ、ホタルというのは。  いかにも日本的だ。  この一帯は、ホタルの里と呼ばれるくらいなので、見物客が多く て、もうひとつホタルの世界に入りこめずにいるが、暗い夜道をひ とりで歩いていて、目の前の川で、ホタルがす〜〜と、飛んだら、 ここちよい悲しみにつつまれてしまうだろうなあ。  私がRPGの『桃太郎伝説』という、和風の題材を取り上げてい たにもかかわらず、ホタルが登場しなかったのは、こういう理由で ある。もっと早くに見ていたら、絶対登場させただろうなあ。    でも、お父さんたちが、家の中で煙草が吸えなくて、ベランダで 煙草を吸うのを、ホタル族と呼ぶのも、よくわかった。煙草の光と ちょうどおなじくらいの大きさなんだな。色が違うだけで。  午後8時30分。部屋に戻り、温泉に入り、マッサージを受ける。  すっかり眠くなる。  iモードで見たら、横浜ベイスターズが負けていたので、『プロ 野球ニュース』を見る前に寝てもOKだ。  ちょっとでも、日記を書き始めなければと、キーボードを叩き始 めるが、眠いので、センテンスが長くなる。  ダメだ、こりゃ。  やっぱり、寝る。  それではおやすみなさい。
 

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