4月4日(火)


 昨夜、グルメ・バカ娘が突然「うばが餅が食べたい!」と言い出
した。うばが餅とは、東海道五十三次の、52番目の宿場・草津の
名物である。どこでそんな知識を?と思ったら、NHK『葵・徳川
三代』で見たそうだ。
 え? そんなシーンあったか?
 あっ、あれか! ドラマが終わったあとに、『葵・徳川三代』の
舞台となった場所を、高校野球の出場校紹介みたいにしてやる5分
ぐらいの番組がある。あれでか!

 しかし最近、グルメ・バカ娘が『葵・徳川三代』を見たがるよう
になって、少しは歴史に興味を持つようになったかと喜んでいたら
やつの歴史の興味は、やっぱり食い物かい!
 何が「さくちゃん、あのうばが餅って、美味しそうだよ!」だ。

 というわけで、うばが餅を食べに行くことにした。あっさり!
 iモード・ゲーム『さくま式東海道五十三次』にも、このうばが餅
は登場させたものの、私も食べたことがなかったので、話の種に行
ってみたいと思ってはいた。

 午前10時。まずはイノダ・コーヒ本店へ。嫁もグルメ・バカ娘
もイノダ・コーヒ本店が焼けてからは、初めて。
 イタリアン・スパゲティにコーヒー。

 午後12時。京都駅から新快速で、草津駅へ。
 みんな、♪草津よいと〜こ〜、一度は〜、おいで〜 どっこいし
ょ〜の草津を想像すると思うけど、あれは群馬県の草津温泉。ここ
はただの草津。というより東海道と中山道が交わる由緒ある宿場町。
 日本の地名は、けっこうおなじものがあって、まぎらわしい。

 草津駅から、15分ほど歩いて行くと、草津宿本陣に着く。
 見学して行きたいところだが、イノダ・コーヒ本店から京都駅近
くまで、かなり歩いて疲れてしまっていたので、なにはともあれ、
うばが餅を急ぐ。
 
 草津宿本陣のそばの「W」というお店に入る。草津の名産なども
売っていて、うばが餅も売っている。うどんも食べられるので、な
かに入って座ると、これがうばが餅は、食べられないと来た!
 お土産として売ってるのに!
 まいったなあ!
 ご飯食べたばかりだから、うどんは無理だよ。
 仕方ないので、コーヒーだけ飲んで、草津宿本陣へ。

 看板に「家康も泊まった、新撰組の土方歳三も泊まった」とえら
く下品そうな筆で書かれている。そりゃ、東海道五十三次の宿場な
んだから、泊まった可能性は高いけど、それって推測でしょ! 誇
大広告もいいいところだなどと思いつつ、200円の拝観料を払っ
て入る!
本陣
     ほう。けっこう広いね。えっ? 468坪、39室もあるの? す ごいじゃないの!  ありゃ? 宿帳に、土方歳三、斎藤一、藤堂平助の名前が! ほ んとに新撰組が泊まってるよ! ぎょえ〜! 直筆だ! 慶応元年。 新撰組の最後のほうだな。
廊下
     おお! お殿さま専用の部屋がある。お殿さま専用のトイレまで。
雪隠
    あらあらお殿さま専用のお風呂も。何で広い部屋にぽつんとお風呂 がと思ったら、槍を刺しても届かない位置に、湯船を置いているの だそうだ。ふ〜ん。こりゃ本当に、徳川歴代の将軍も泊まったに違 いない。  こんなに充実してるとは思わなかった。  これで200円は安いよ。  台所も見事に再現してあったし、庭もきれいだし、期待していな かっただけに、なんだか得した気分。  それならと元気を取り戻して、最初からの目的地である「うばが もちや」をめざす。  草津川の川沿いを、歩く。旧東海道だ。  左の道を行けば、旧中山道。 「こっちじゃなくて、東海道から来ていれば、西田敏行も、津川雅 彦さんに怒られなくてすんだのに!」と、グルメ・バカ娘と会話す る。『葵・徳川三代』を見た人なら、わかるけど、徳川秀忠が、中 山道を通ったばかりに、関ヶ原の合戦に間に合わなかったあたりの 話だ。芸能人の名前で教えられるから、頭に入りやすい。  徳川秀忠という名前も、西田敏行が演じた人と思うと、覚えやす いものだ。  草津川沿いに歩くが、ゆるやかな坂になっていて、けっこうへば る。橋のところまで来て、へろへろになる。  京都で30分ぐらい歩いて、草津駅から15分。間違えて、草津 宿で、15分、さらにいま15分。けっこう歩いている。  草津は、東海道五十三次の52番目で、次は京都三条のゴールに なる。ここからあんなところまで1日で歩くなんて、ほんと昔の人 は、健脚だったんだなあと今更ながら思う。  午後1時。町の人に道を聞きながら、ついに「うばがもちや」に 到着。「うばがもちや」と平仮名で書かれていると、スーパーファ ミコン時代の『桃太郎電鉄』の物件名みたいだ。  名代「宿場そば」というお店と、本家「うばがもちや」が並んで 一軒のお店になっている。
うばがもちや
     思ったとおり、うばが餅は、乳母が餅にちなんだ、お餅で、おっ ぱいを型どっている。といっても、あんころもちほどの大きさ。  味は、ちょうど伊勢名物赤福みたいなこしあんで、美味しい。
うばがもち
     東海道五十三次のゴール近くで、こういう甘い物売ってたら、さ ぞかし繁盛したことだろう。たいして歩かずにへばった私たちでも これだけ美味しいのだから。  これまた徳川家康が屋号を与えたり、松尾芭蕉が句を詠んだり、 与謝蕪村も句を詠んだとか、安藤広重も食べたとか、有名人のよく 行くお店となっていたようだ。  何といおうと、400年以上ここに店を構え続けていることに、 驚嘆する。  さて、このあと本来なら、水口(みなくち)というところに寄っ て、さらに伊賀上野まで遠出しようと企んでいたのだが、どうにも 足がもつれるので、中止。マンションに戻って、仮眠することにす る。  それでも、草津駅まで、15分間。ひいひい言いながら、やっと のことでたどりつく。  午後2時4分発の新快速に乗ったとたん、京都相互タクシーの宮 本さんから電話が入る。「いま京都駅の八条口にいます」というで はないか。これは渡りに船。  午後2時30分。京都駅着。宮本さんのタクシーに乗る。すっか り気が楽になって、このまま帰るのももったいなくなって、石清水 八幡宮まで行ってもらう。  昨年暮れ、最古のさくまにあ・戸田圭祐と九州旅行をして、宇佐 神宮へ行ったとき、一に、宇佐八幡宮、二に、伊勢神宮、三に、石 清水八幡宮と書かれていた言葉がずっと気になっていたのだ。  伊勢神宮はもちろん何度も行っているけど、石清水八幡宮は行っ ていない。しかも京都なのに行っていないのは、なんだかくやしい。 九州の旅の空で、そう思ったものだ。  鴨川沿いを車は走る。  花粉症も弱まり、快適なドライブだ。  これで桜が満開なら言うこと無しだが、あと2日ぐらいで、いっ せいに花が開くようで、まだどこもつぼみのまま。2日後には、東 京に戻らないといけない。  あれ? あれは何だ!  さっき、宮本さんが言っていた、変な神社か! そうだ!  どう変な神社かって? 名前からして変だよ! 「飛行神社」!  ねっ? 変な神社でしょ?   こんなおもしろそうなものを見ないわけにはいかない。  宮本さんに車を停めてもらう。
飛行神社
     おいおい! ジェット・エンジンが飾ってあるよ。大きいなあ。  本当に飛行機を祭ってある神社だ。  旅の安全を祈願したり、スチュワーデスさんが、就職試験に受か りますようにという絵馬を置いていったりしてる。  日本航空界の先駆者・二宮忠八翁をたたえる碑もあるぞ。  二宮忠八さんのことは知ってるぞ。  四国八幡浜の生まれで、日本の飛行機の父と呼ばれた人だ。  記念飛行大会が毎年開かれている。 『桃太郎電鉄』を作るときに、仕入れた知識だ。  へ〜。この神社のシンボルマークっていうのかな? 何ていうだ ろう。とにかくマークね。それがトビウオになっている。なんだか モダンな神社だな。さすが飛行機を祭っている神社だ。  宮本さんから聞いたのだけれど、お正月になると、この神社の上 空まで飛びに来る飛行機乗りはいまも多いそうだ。  いろんな神社があるもんだ。  ちなみに八幡市にこの神社はある。  午後3時30分。石清水八幡宮に来たかった、もうひとつの理由。  よく懐石料理などで、松花堂(しょうかどう)弁当というのが出 る。前からこの「松花堂(しょうかどう)」というのは、どういう 意味か知りたかった。  それを最近知った。  この地に住む、松花堂(しょうかどう)さんという人がいて、そ の人が絵の具を入れておくのに、四つ切りの入れ物をつかっていた。 それを有名な日本懐石料理界の頂点である「吉兆」のご主人が見て、 懐石料理を盛りつけるときに、この箱を真似たところから、松花堂 (しょうかどう)弁当と呼ばれるようになったのだという。  豆知識だねえ!  その松花堂(しょうかどう)弁当の発祥の地がここなので、見に 来た。 「史跡・松花堂」とある。  ん? でも門が閉まってるぞ! 休館日と書いてある。  休館日? 休館日って、ふつう月曜日じゃないの? ほら、休館 日と書かれた貼り紙にも、「毎月第一月曜日」と書かれているじゃ ないか! きょうは火曜日だぞ!  えっ? えっ? ウソでしょ! 「毎月第一月曜日」と書かれた文字に続いて、小さい文字が! 「毎月第一月曜日とその翌日」…。 「その翌日」って? 火曜日のこと?  だったら「毎月第一月曜、火曜日」と書いてくれない?  なんてまぎらわしい書き方なんだあ!  午後4時。石清水八幡宮に到着。 「エジソン記念碑」というのがあった。  何でもエジソンが、石清水八幡宮の境内に生えている竹を、電球 のフィラメントの材料にしたという。へ〜。エジソンが日本の竹を フィラメントにつかったというのは、偉人伝で何度も読んだけど、 ここの竹だったのかあ! へ〜。  いろんなことに出会える日だなあ。  石清水八幡宮をお参りする。  またまた有名人のラッシュ。徳川家光がこの石清水八幡宮の修築 をてがけているそうだし、源義家が、八幡太郎の名をもらったのも ここだそうだし、やっぱり書いてあったぞ! 「伊勢の神宮に継ぎ、天皇家第二の宗廟として社格は高い」。
石清水八幡
     ふむふむ。1日でものすごい勢いで、知識がついたような気がし てきたぞ。  さすがに、へばりまくりなので、京都のマンションに向かっても らう。少しマンションで休んでから、食事に向かうことにしたが、 あいかわらずへそ曲がりな家族である。  私は昨日ずっと、竹の子が食べたいと言い続けていた。  この意見にも嫁とグルメ・バカ娘は賛成だったのだが、ふたりと も、竹の子づくしのお店はイヤだと贅沢をいう。  この意見に従って、昨日「鹿ヶ谷山荘」になったのだが、あいに く竹の子が小さかった。  だから私はまだ竹の子が食べたくて仕方がない。  どうしたらいいだろう。  やっぱり無理のきくお店に相談するのがいちばんだ。  グルメ・バカ娘イチ押しの割烹料理屋、この日記ではおなじみす ぎる「M」に電話する。大きい竹の子ありますか?と。  ある!?   やったあ!  午後6時。というわけで、「M」のカウンター席には、「ああ!  どうしてこんなにうれしいのー!」と目をうっとりさせる中学生と、 その親子が並んで座って、にこにこして大きな大きな若竹煮を食べ ていましたとさ。  めでたし、めでたし!
 

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