3月20日(月)


 きょうはつくづく食べ物運の無い1日だった。

 午前10時30分。家族3人で、ゲーム部屋に行き、戸田圭祐と
ゲーム部屋の完成を見届ける。

 午前11時。そのまま近所のカレーライス屋「GHEE」に行く
も、休みなのか、まだ開店前なのか、とにかく人気(ひとけ)が無
い。少し戻り、カレーライス屋さん「EATS」が開いているので、
入ろうとすると、午後12時からだという。

 こういう運の無い日というのが、たまにある。
 グルメ・バカ娘がいるのに、食べ物運が無いのが、不思議だ。
 
 午前11時30分。けっきょくいちばん安全な表参道「ロイヤル
ホスト」に行くことにした。すでに2軒カレーライス屋さんに振ら
れたので、口の中がカレーライスを欲しているので、ロイヤルカレ
ーライスのセットにする。

 このあと戸田圭祐と京都へ向かうのだが、どうせならどこか1カ
所ぐらい寄り道して行きたいと思うのが、いい場所が浮かばない。
NHK『葵・徳川三代』の話題ばかりしているので、関ヶ原に行き
たい気もするのだが、昨年暮れに行ってしまった。
 大垣城の「決戦関ヶ原大垣博」は、東京に戻る3月25日から開
催されるので、いま関ヶ原方面に行くのはもったいない。
 そんな会話をしているうちに、京都に向かったほうがいい時間が
来てしまった。

 午後12時56分。のぞみ10号。
 3連休の最後の日なので、よく混んでいる。
 子どもの泣き声が絶え間ない。
 各車両の電光掲示板では、あの地下鉄サリン事件から5年という
テロップが何度も流れる。
 早いものだ。もう5年か。
 戸田圭祐は、あの地下鉄サリン事件の年、1995年に神戸西宮
で「阪神大震災」に遭い、私はその年のクリスマスの夜に、脳内出
血に倒れた。

 そのふたりがこうして、のんきに新幹線のなかで、新作『桃太郎
電鉄』の話をしているのだから不思議なものだ。
 いろいろあって『桃太郎電鉄』は、翌年の『桃太郎電鉄HAPP
Y』で終了するはずだった。
『桃太郎電鉄HAPPY』のHAPPYは、ハッピーエンドのHA
PPY のはずだった。
 このことはいつかまたどこかで語ってみたいと思う。語る日が来
ないで終わることのほうが幸せだが…。
 現実にこうして、語らずにすむ幸せを満喫している。

 どういうわけか、戸田圭祐は本当に二酸化マンガンで、私のアイ
デアがよく出る。
 きょうも、車中のアイデア出しで、それまで煮詰めることができ
なくて悶々としていたイベントが、ひょっこり完成してしまう。

 気分がいいので、コーヒーを飲む。
 まぢい! コーヒーがまずい!
 そうだ、きょうは食べ物運が無かったのだった。
 それでも昔に比べて、新幹線の車内販売のコーヒーのまずさより
何倍も美味しくなっていると思う。昔のは、コーヒーというよりも、
コールタールのようであった。

 午後3時10分。京都駅着。
 京都はやっぱり寒いなあ。東京が暖かったので、薄い上着1枚で、
コートを家に置いて来てしまった。
 これは、ちょっとどころか、かなり失敗だな。

 戸田圭祐が、日記によく登場する「はつだ」の特製和牛弁当を見
たいというので、伊勢丹デパートB2へ。
 戸田圭祐は「おお! これか!」と叫び、一瞬きょうの夜食に買
って帰ろうとしたが、1500円という値段で思いとどまったよう
だ。戸田圭祐の価格基準のブレのなさは、芸樹品である。
 ちなみに戸田圭祐は、夜食用に「広告の品・あんぱん80円」を
1個購入していた。つくづく哀愁の漂う男である。

 午後4時。京都のマンションに到着。
 戸田圭祐に、お風呂に低水圧用シャワーを取り付け、トイレに2
段式トイレットペーパー・ホルダーを取り付けてもらう。
 
 まだ食事時間に間があるので、また戸田圭祐に『桃太郎電鉄V』
をプレイしてもらう。
 いつまでも新鮮なプレイっぷりである。
「大胆にして、細心」という言葉があるが、戸田圭祐は「細心にし
て、おっちょこちょい」である。

『桃太郎電鉄V』で、目的地をめざす戸田圭祐は、得意満面で4マ
ス進めるカードで、新潟駅に入る。
「ふっふっふ! あれ? 目的地、新潟やないんでっか?」
「今年ずっと『桃太郎電鉄V』やり続けて、ずっと目的地は、佐渡
だっただろが! 戸田圭祐も何度も入ってたじゃないか!」
「あわわわわわっ!」  

 午後6時。食事をしに外に出る。
 きょうは、食い物運の無い日だった。
 まず、すぎやまこういち先生ご夫妻から「おいしいよ!」と言わ
れていた、おばんざいのお店「よし長(よしちょう)」を探しに行
く。
 あった! ここか! ありゃ? 看板に電気が入っていない。定
休日か。う〜む。でも万が一のために、このお店がダメな場合は、
すぐ近くのおそば屋さん「有喜(うき)屋」に行くことにしていた。
 私も戸田圭祐も、血液A型だから、ぬかりないのだ。
 寺町通りをちょっと上がって、おお! たったいま外人のカップ
ルが入ったお店だ、「有喜(うき)屋」は。
 えっ? 今の外人カップルが入ったところで、満員? そげなベ
イビー! くそー! ダメだ、ほか行こう。

 寒いぞ、戸田圭祐!
「ほな、もう近いところで、オムライスのルフはどうでっか?」
「うむ。そうするか。こういうとき、じたばた新しいお店に入ると、
大失敗するからな。手堅く送りバントだ!」
「さくまサン、ルフはこっちやったではないですか?」
「そうだったかなあ? まあ、そっち行ってみるか!」
 
「おい、戸田圭祐! ルフに着かずに、四条通りに出てしまった
ぞ!」
「えろう、すんまへん!」
 あいかわらず京都北白川生まれのおぼっちゃま・戸田圭祐は、私
より京都の地理に暗い。

 午後6時30分。もうここしかないと、先斗町(ぽんとちょう)
の欧風料理のお店「開陽(かいよう)亭」に入る。
 ここの洋風弁当は美味しい。
開陽亭
     えびフライとか、クリームコロッケとか、ひとつひとつが小さく て、品数が豊富なので、少食の私はこのお弁当が大好きだ。きょう は鴨ロースも入っていた。季節によって、なかに入る物が違うのも いい。  戸田圭祐と『桃太郎電鉄』シリーズのアイデア出しをしながら、 食事。とにかくきょうから、24時間『桃太郎電鉄』体制である。  朝から晩まで、『桃太郎電鉄』のことばかり考える。  過酷でもあり、幸せでもある。  長いこと業界で生き抜いていると、ずっとおなじ仕事のことばか り考えることは、贅沢になって来る。  午後7時。タナカコーヒーで、コーヒーを飲んで、戸田圭祐とは、 三条河原町で別れて、京都のマンションへ。  そのまま、新作『桃太郎電鉄』の仕様書作り。  この1週間の京都シリーズは、どっぷり仕事だらけなので、地味 な日記になってしまいそうだ。下手に遠出して、日記を書く時間が 長くなるのも惜しい状態に入っている。  そんなわけで、京都集中合宿シリーズ、スタート!
 

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