3月4日(土)山中温泉〜京都


 雨が降っている。
 旅先で雨に会うなんて、珍しいほうだ。
 完全に遊びのつもりで行くと、雨に会うことは、私の場合、かな
り確率の高いジンクスではある。

 珠洲の宿「S」のせいで、身体が衰弱してしまって、あとは移動
と睡眠の繰り返し。
 昨日もこの「かよう亭」に着いて、仕事もせずに、寝てしまった。
 たしかに雨が降りやすい状況にあったようだ。

 午前8時30分。世間は、プレイステーション2の発売日で沸き
返っているというのに、私は加賀温泉「かよう亭」にて、朝食。
 美味しい朝食とは聞いていたけど、その期待度を軽くオーバーし
て、スタンドに突き刺さるホームランって感じだ。

 まずお粥が出た。
 お味噌をお粥で溶くと美味しいですよと言われる。
 どれもこれも、どこかで食べたような食べ方に、もうひと味付け
加えられている。
 固豆腐というのも、水気を切ってスライスした豆腐で、これも味
噌仕立てみたいなものにつけて食べる。
かよう亭 かよう亭
     海苔を焼いて出してくれる。焼き海苔は、日本旅館の最高の贅沢だ。 ビニールに入った朝ご飯の海苔は、日本旅館の定番だけど、もう1 ランク上の日本旅館に行くと、この炭火で炙る、海苔に出会うこと ができるようになる。
かよう亭 かよう亭
     さらに魚のハタハタも、炭火で焼いて食べる。  ついでに、たらこの切り身も焼く。  玉子焼きは、甘さをまったく入れない上品な味。  ブリ大根も出た。  これで、朝食だからねえ。  夕ご飯みたいだよ。  もうお腹が本当に苦しい!  ふだん1日2食の生活から、いきなり1日3食になって、胃は驚 いたままだ。  午後10時。ロビーで、コーヒーを飲んで、呼んでおいたタクシ ーで「かよう亭」を後にする。
かよう亭
   雨だから、そのまま京都に戻ることを考えていたのだが、昨日と っても気になる博物館のパンフレットを手に入れてしまったので、 雨だというのに、わざわざでかけている。  午後10時30分。加賀温泉と小松の間くらい。  イギリスのウインザー公のお屋敷はこんなだったのかなあ、と思 えるほど、ひときわ大きいレンガ建ての館、それが「日本自動車博 物館」だ。とにかくでかい!  例によって、私の大好きなクラシックカーが大量に展示されてい る博物館だ。  いつもおなじことをいうけど、私が『桃太郎電鉄』の作者だから、 さらに現在、車に乗っていないから、車が嫌いだと思われているよ うだが、実は熱狂的な車マニアである。
くるま
 ただし、お金があったら、何億円つかっても、果てというものが ないのが、車マニアの世界だ。自分はそうなる可能性が、限りなく 100%に近いので、26歳のときにすでに、この道に進むことを 自分から絶った。  だからこうして今も、車の博物館というと覗いてみたくなる。  それにしてもこの自動車博物館。かつて見た、どの自動車博物館 よりも、規模において、スケールが違いすぎる。  その数500台が展示されている。  壮観な眺めだよ。  過去に発売された国産車のほとんどが展示されている。  …っていうことは、あった!  私が大好きな、映画『007は二度死ぬ』でもつかわれたトヨタ 2000GTが、ひときわ高い台座の上に、王者の風格を漂わせな がら、そのボディを輝かせている!
くるま
   えっ! その左下に、えっ! えっ! えっ!  車マニアではない人は、私の「えっ!」に、まったく驚かなくて いいですよ! 私が変なだけだから。  うお〜〜〜〜っ! 生きているうちの本物のこの車に会えてしま うことができたんだ〜!  もう先日の「五つの赤い風船」の西岡たかしサンに会えたとき以 来の感動だよ〜。  プリンス・スカイラインスポーツがいた!  斜めヘッドライトのスカイラインスポーツだ!  この車は、昭和30年代に作られたが、当時も50数台しか市場 に出回らなかったはずだ。  イタリアのデザイナー・ミケロッティのデザインによるボディだ。  恐ろしいねえ、小学生の頃の知識って、いまだに覚えてるもんな あ!
くるま スカイラインスポーツ
 親父が、このプリンス自動車に勤めていたから、よけいこの車に は思い入れが強い。  しかし、プリンス・スカイラインスポーツが展示されているって ことは、子どもの時だって、写真でしか見たことのなかった、日産シ ルビアの初号機が見れてしまうのでは!
くるま 日産シルビア
 まいったなあ! スカイライン・スポーツの横にいるじゃない か! そうならそうと言ってよ、って車はしゃべられないよ。  あ〜〜〜、目移りする。  スカイラインスポーツと、日産シルビアのどっちを見ていたらい いのか、迷っちまうよ。  ギャグでなく、藤原紀香と優香がいきなり、全裸で部屋に入って 来て、どっちも見ていたらいいのかわからないくらい興奮している のだ。  女性から見れば、車のどこがそんなにいいのかね〜、ということ になるけど、男性から見て、女性がなぜあれだけ宝石に夢中になる のか理解に苦しむのとおなじくらい不可解だろうなあ。
車 豪華なのか悪趣味なのか…金箔貼りに輪島塗の車
 うちの嫁はもう、クラシックカーを見ると、男の子に戻ってしま う私にすっかりなれてしまったようだ。  男の子は車が好きじゃなきゃね〜!  ああ〜、も〜、プリンス・スカイラインスポーツと、日産シルビ アを生で見ることができたから、最高に幸せ…とか言いながら、柵 を越えて、運転席を覗きに行こうとして、嫁に止められたんだけど ね。この気持ちはさすがにわかってもらえないだろうなあ。  午前11時30分。後ろ髪を思い切り引かれながら、「日本自動 車博物館」を後にする。  最後にせめて一太刀、トヨタ2000GTのキーホルダーを勝っ てもらった。650円だ。うれしいなあ!  午前11時45分。加賀温泉駅。
加賀温泉
 さすが土曜日で、京都行きのグリーン車も、指定席も禁煙席はま ったくの満席。かろうじて喫煙席の指定なら開いているという。最 近めっきりタバコの煙に弱くなったので、売店でマスクを買って、 乗ることにした。  午後12時20分。サンダーバード24号。  自由席の禁煙車にまず乗り込む。  ほとんど席が埋まっているのだが、なんとかひとつだけ、ふたり 分の席を確保する。  このまま京都まで、自由席で行くことに決める。  喫煙車の指定席を持っているのだが、こっちのほうがいい。  乗車後、昨日高岡で買った、ますの寿しを取り出して食べる。  2日間ぐらいは日持ちすると聞いていたので、取っておいたのだ。
ます
 こりゃあ、ますの寿しに対する概念が変わるわい!  タクシーの運転手さんが、駅弁のますの寿しは絶対買わないと言 っていたのが、よくわかる。  まるで、鮭ハラスのような濃厚な脂が乗っていて、それでいてあ と味さっぱり、ご飯も上品。言うこと無しだ!  これが本来のますの寿しだったんだなあ!  デパートの駅弁大会のますの寿しが、いつ食べてもいまいちだっ たので、もうひとつ『桃太郎電鉄』でもますの寿しをクローズアッ プすることがなかった。  いよいよこれは、キャンペーンしなくっちゃ!  福井を過ぎる頃から、電車は豪雪地帯に突入したようだ。  まるで白い煙の中を突き進んでいるいみたいだ。  窓から何も景色が見えない。
車窓
 それにしても、あれだけ雪を覚悟してでかけて来たのに、どこに 行っても、雪が降り止んだところばかりで、雪が降っているさまを 見たことがなかった。  それを最終日に、電車のなかから見るとは思わなかった。  午後2時6分。京都駅に着く。  そのまま京都のマンションへ。  すでに、実姉とグルメ・バカ娘が東京から到着していた。  さっそく日記のほうを推敲して、完成させる。  例によって、どの日も長くなる。  いつか旅日記として、発売したいので、どうしても日記のときだ け、さらに時間の記述が細かくなる。あとで資料を加えて、再構成 したいからだ。  かなりデジカメの写真もたまったので、どこぞの出版社の方々、 ぜひとも出版企画のほうをよろしくお願いします。  午後7時。家族3人と、実姉が揃ったところで、3日間グルメ・ バカ娘の面倒を見てもらったお礼をこめて、おなじみ京都の「M」 に行く。  きょうも、鴨鍋が出た。
かも かも
 わさびを大量に溶いて、水菜とネギをどっさり!  鴨につけた小麦粉のせいで、とろ味が出て、食べて行くに従って、 美味しくなっていく。  最後はいつものように、ここでしか食べられない、ふぐで出汁を とった、カレーライスをいただく。  さらに新しいメニュー、蟹チャーハンもいただく。  こんな脂っぽくないチャーハンって食べたことないよ!  えっ? 松葉蟹が入ってるの? まいったね、こりゃ!
美味しい顔
 午後9時30分。京都のマンションに戻る。  やっぱり家のベッドはのんびりできるなあ!  きょうは読書しながら、くつろごうっと。
 

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